第3章 超局地的寒気団、襲来。
(…利…ゆぅり……)
「ヴィーチェニカ…?…夢か。はぁ…僕、どんだけ欲求不満なんだろ」
夢の中での恋人の痴態を思い出しながら目を覚ました勇利は、健全な生理現象とはいえ下半身の昂ぶりに虚しさと羞恥を覚えていた。
「勇利ー。いい加減起きて純くんと朝ご飯食べちゃってよ。それ終わったら雪掻きしてくれる?」
「雪掻き?…うわっ、嘘でしょ!?」
ドア越しに響いた姉の真利の言葉に、勇利は眼鏡を掛けながら自室のカーテンを開けると、直後眼前に広がった銀世界に驚愕の声を上げた。
次いでベッドを下りると、そこに敷かれた布団にくるまって眠っている純に声をかける。
「純、おはよう。朝だよ」
幾度か声をかけるも、純は目を覚まさない。
「疲れたのかな。昨日は演技の他に子供達に教えたり、トラブル対策でリンクとミナコ先生のスタジオとの往復だったしな…でも、流石にそろそろ起こさないと」
上体を屈めた勇利は、純の布団を僅かに捲りながら彼の耳元で囁いた。
「純、朝ですよー。ご飯食べに行こう。純ー?」
「…ん…?…尚寿さん……?」
「え…ちょ、純!?」
何処か甘ったるさを帯びた声でこちらを振り返った純に抱き寄せられて、勇利は狼狽える。
そのまま更に顔を寄せてきた純だったが、仄かに頬を赤くさせながら硬直している勇利に気付くと、一気に現実に引き戻された。
「──!ゅ、勇利!?」
「…オハヨウゴザイマース。良かった、目が覚めたみたいだね」
バラエティ番組のリポーターのような声色で、勇利は顔を青く赤くさせている純に努めて明るく笑いかけた。
「あ、あのな、勇利…ぼ、僕、何か君にいらん事言うてへんかった…?」
「え?寝呆けながら抱き付いてきたけど、何言ってるのかまでは聞き取れなかったよ」
「そ、そう。なら、ええねん…迷惑かけたみたいで、ゴメン」
「大丈夫。さ、着替えて朝ご飯にしよう。天気予報見事に外れて大雪だから、後で雪掻きもしないと」
「雪…?ホンマや!こんな九州の海辺の街でも積もるんやなあ」
「それでもここまでの積雪は珍しいけどね」
「僕も手伝うわ。後で用具貸してくれ」
いつもの調子に戻った純に、勇利は彼の寝言に出てきた『あの人』の事は黙っておく事にした。