第4章 日露2大怪獣・ゆ~とぴあの決戦。
一方、3月に大学院を卒業した純は、教授の伝手で時折短期講座の講師として教鞭を執ったり、藤枝のアシスタントとなって最近増え始めた生徒達のフォローの傍ら、振付師の宮永から指導を受けつつ修行の一環としてそれまで中断していたバレエやダンス、ピアノのレッスンにも通い始めていた。
日本での仕事にある程度目処がついた純は、休暇を利用して、オフシーズンを過ごす勇利達のいるピーテルへ向かった。
ヴィクトルやユーリがいるとはいえ、かつて留学していたデトロイトとは違い殆ど英語が通じない生活で、見えないストレスが蓄積していた勇利の鬱憤その他を日本語で存分に発散させた後は、彼の新たなEX用の楽曲と振付を確認していたのだが、
「だから、俺とお前は合わないんだよ!」
「むしろ合わんでホッとするわ!あんたみたいなのと合うてるなんて言われた日には、僕即刻ネヴァ川にダイブしとる所や!」
リンクに響き渡る2種類の怒号に周囲は「またか」といった視線を送る。
純がピーテルに訪れてからというもの、ヴィクトルは事ある毎に勇利本人や彼のスケートを巡って言い争いを繰り返していた。
2人共勇利の為を想う余り、互いの才能を認めざるを得ぬものの、どうしても反発してしまうのである。
ここまで来ると最早半分意地のようなもので、「勇利をより魅力的に出来るのは自分の方!悔しかったらお前もやってみろ!」とばかりに、ヴィクトルと純の作る勇利のプログラムは、シーズンを前にかなりのクオリティを高めつつあった。
本人そっちのけで口論を続ける2人を遠巻きに眺めていた勇利だったが、ふと背後からユーリに声をかけられた。
「カツ丼。ヴィクトルもサユリも、終わらナイ。先にランチ、行コウ」
「そうだね、何食べようか」
「駅前ノ店、リニューアルした。ブリヌイとペリメニ、オイシイ」
「いいね。じゃあそこに……ん?…ねえユリオ、君今」
「──ンだよ。決めたんならさっさと行くぞ」
「あ、待ってよ」
歳下のリンクメイトからの言葉に奇妙な親近感と違和感を覚えた勇利だったが、足早にリンクを出ていってしまったユーリを慌てて追いかける。
未だ純とヴィクトルの舌戦が続く中、こちらに向かってくる勇利の気配を背中に感じると、ユーリはコッソリと口元を綻ばせていた。
─完─
