第4章 日露2大怪獣・ゆ~とぴあの決戦。
2種類の悲鳴の後で、『2人のユーリ』が更衣室になだれ込んできた。
咄嗟に床上で受け身を取った勇利の背に倒れ込む形になったユーリは、その感触と体温に思わず胸を踊らせる。
一瞬だけ彼の背に身を委ねたくなったユーリだったが、自分達を見下ろす蒼と黒の2色の双眸に気付くと、慌てて身体を起こした。
「これ。盗み聞きとは感心せんなあ」
「ユリオはともかく、勇利まで何やってるんだい?」
「『ユリオはともかく』って何だよ!俺は、お前がサユリに危害加えてねえか気がかりだっただけだ!」
「いや、僕は止めようとしたんだけど、ユリオが聞かなくて…」
「嘘吐くな!カツ丼だって、途中からこいつらの話に興味津々だったじゃねえかよ!」
心なしか顔を赤らめながら抗議するユーリに、勇利は片手で頭を掻く。
そんな『2人のユーリ』の姿を見て、純とヴィクトルは顔を見合わせてから吹き出した。
「安心し。ちょっと互いの譲れへん主張でぶつかり合ってただけや。怪我もしてへんし、させてへん」
「その割には、俺の痛点突きまくってくれたよね?」
「ええ刺激になったやろ?…2人共、心配かけたなあ。結構長い間おったようやし、身体冷えてるんと違うか?僕が言うのも何やけど温泉入っといで。真夜中の露天風呂いうんも、中々風情があってええで」
「え、」
何か言いかけた勇利だったが、純の視線の先で僅かに身体を震わせているようなユーリの様子に気付くと、小さく頷く。
「あー…確かに僕、ちょっと寒くなって来ちゃったかなあ。ユリオ、嫌じゃなかったら一緒にどう?」
「……しょーがねえから、付き合ってやるよ」
その割にはいそいそと脱衣所に向かうユーリの背を見送った純は、勇利に「君の机にあるロシア語の辞書を借りてもええ?」と承諾を取ると、何処か曰くありげな視線をユーリに向けているヴィクトルを連れて、更衣室を出た。
ヴィクトルが使用していた部屋の布団の上で、純は持参していたタブレットとスマホの録音アプリ、そして勇利の部屋から拝借したロシア語の辞書を用意すると、向い合わせで胡座をかいているヴィクトルを見た。
「さて…これがさっきの質問の答えの1つや。ヴィクトル『コーチ』」
純の意図に気付いたのか、ヴィクトルは目を瞬かせた。