第4章 日露2大怪獣・ゆ~とぴあの決戦。
「ユリオ、何してるの?」
「ぅわっ?…って、カツ丼かよ。おどかすなよ!」
男湯用更衣室の扉の前にユーリの姿を見つけた勇利は、彼に声をかけた。
背後から勇利に声をかけられたユーリは、文字通り飛び上がる勢いで驚いたが、直後振り返ると人差し指を口元に置いて「静かにしろ」のジェスチャーをする。
「あいつらが、いつまで経っても戻って来ねえから…ジジイはともかく『サユリ』がジジイに怪我でもさせられてねえか、ほんのちょっとだけど気になって」
「まさか、ヴィクトルが純にそんな真似する筈」
「お前は、ジャパンナショナルの時のヴィクトル見てねえから、そんな事言えるんだよ。どんだけお前と特にサユリに対してマイナス感情ダダ漏れだったか」
「え~」
「ったく、当の本人はこれだから…ヒトの気も知らねえで」
語尾を濁しながら扉に耳をつけて中の様子を窺うユーリを、勇利は不思議な気持ちで見つめていたが、程なくして扉越しに微かな声が聞こえてくるのを覚えた。
露天風呂から上がった純とヴィクトルは、ややのぼせた頭と身体をタオルで拭う。
「これからの勇利とあんたは茨の道や。更にあんたには、勇利以上のプレッシャーと課題が待っとる。あんた1人の事なら何とかなっても、勝生勇利のコーチとの二足の草鞋は時間も人手も足りひんやろ」
「…だから?」
「判っとるんやろ。あんた達には、僕の力が必要やって事」
室温のミネラルウォーターのボトルを純から受け取ったヴィクトルは、肯定とも否定ともつかない笑みを口元に浮かべた。
「随分な自信だね」
「少なくとも、僕は勇利が今よりもっと素敵なスケーターになる為に力を貸すと約束した。そして、それは勇利だけでなくあんたにとっても悪い話やない筈や」
純の真摯な瞳に見据えられて、ヴィクトルも又目を細める。
「…それで?お前は、俺の為に何をしてくれるっていうんだい?」
「そうやな。まずは…」
ヴィクトルの問いに答えようとした純は、ふと何かに気付いたように視線を移すと、足音を立てずに移動した。
「ワオ、ニンジャ、シノビアシ?」
「しっ」
ヴィクトルを黙らせた純は、無言で更衣室の引き戸を指す。
その様子にピンと来たヴィクトルは、純と2人で更衣室の扉に手をかけると、次の瞬間勢い良く開け放った。