第4章 日露2大怪獣・ゆ~とぴあの決戦。
「コーチとしての俺は、お前に感謝しなければいけない。基本国内では競争相手のいない勇利が、お前のお蔭で良いモチベーションを保ちつつ、試合に臨めたと思う」
淡々としたヴィクトルの言葉に、純は平静さを取り戻すと耳を傾ける。
「それに、俺の代わりにお前は勇利に今後どのように戦っていけば良いのかも教えてくれた。それは、かつて勇利と同じ時を過ごしていたお前だから出来た事なんだろうな」
「…」
「だけど、俺個人としては腹立たしい事この上ない。あの自信レスの『子豚ちゃん』だった勇利を『王子様』にしたのは俺なのに、俺だけが勇利の隠れた魅力を引き出す事が出来たと思ってたのに」
「…あのEXは、あんたを悔しがらせるのも目的の1つやったしな。僕としてはしてやったりや。ただのお遊びレベルなら、あんたもここまでムキにはならんかったんやろ?」
「オレ、オマエ、ムカツク」
「何やねんな、そのどっかの悪魔みたいな喋り方は」
ヴィクトルの口から出た日本語と、自分に引っ付いたままの何処か拗ねたようなヴィクトルの余りにも子供っぽい表情を見て、純は毒気を抜かれるのを覚えた。
「でもね。そんな風に勇利を思って腹を立てたりヤキモチ妬いてる自分が、凄く滑稽なんだけど…嬉しいんだ」
「…嬉しい?」
「うん。これまで俺にとってはスケートが全てで、それ以外に俺の心を繋ぎ止めるようなものってなかったから」
純から離れて隣に腰を下ろしたヴィクトルは、一瞬だけ視線を恋人につけられた内腿の歯形と鬱血痕に移す。
「意外やな。ウィンク1つで世界中の女性を虜にするような男が」
「あのね、人を節操ないように言うの止めてくれる?そりゃ、恋愛経験はまあまあ積んできたけど、スケートより優先させるようなものじゃないだろう」
それについては、ヴィクトル程ではないが純にも憶えがあった。
故障前から現在に至るまでそれなりに付き合ってきた女性もいたが、競技生活と恋愛の両立は難しく、結局皆似たような理由で去られてしまっていたのだ。
「勇利は、俺の事をはじめて繋ぎ止めたい人と言ったけど、実は俺の方が、勇利を繋ぎ止めたくてたまらなかったんだ。去年のGPFのバンケットで約束したのに、勇利はすっかり忘れてて…」
「…あんたがコーチ決めたんは、勇利の完コピ観たからやなかったん?」
「切欠はもっと前からだよ!」
