第4章 日露2大怪獣・ゆ~とぴあの決戦。
師走の夜の帳に、多国籍な争いの声と物音が響き渡る。
「コーチのクセに、可愛い教え子の挙動1つも信じられへんのか!その凝り固まったガチガチの頭、いっそ暗黒時代のレニングラードがお似合いやないか?」
「とっくの昔にペレストロイカで消滅してるよ!俺の故郷は今も昔もピーテルだ!」
「そう、あんたの居場所は『ここ』やない。ほな、あんたは何の為に『ここ』におるんや?」
「そんなの愚問だろう、何度も言わせるな!」
ヴィクトルの表情から僅かに怒りだけが原因でない頬の赤みが増したのを見て、純の瞳が細められた。
不毛で醜い争いを繰り返しながら、純もヴィクトルも心の何処かでは判っていた。
自分の怒りも相手の怒りも、元を辿れば全てが『彼』に行き着くという事に。
そして互いが『彼』と関わった事で『彼』のプラスになったという事も。
しかし、
((どうしてそれをやったのが、よりによってこいつなんだ!!))
その1点のみが、どうしても理性で感情を抑え切れない程大きなものだったのである。
「1年足らず一緒におったくらいで、勇利の全てを判ったような顔せんといてくれるか?」
「お前こそ!無駄に長い間勇利と競技してきたクセに、ロクに勇利の事理解出来なかったんだろうが!」
「はっ!その理解できひんかったヤツの即席EXに、恐れをなしたんは誰や!」
「恐れてなんかない!ただ、ひたすら不愉快なんだよ!」
「そこだけはめっちゃ同感やな。あんたみたいなのにとっ捕まった勇利が、ただただ気の毒や」
「勝手に勇利の気持ちを語るな!勇利は俺のものだ!お前なんかに渡さない!」
「アホか!誰のものでもない、勇利は勇利だけのものや!」
「…今すぐその口を閉じろ!」
それまで力比べの形で純の両手を掴んでいたヴィクトルは、純の言葉を引き金に勢い良く振り解いた。
足元の悪さも手伝い、純は大きく体勢を崩すと尻餅を着く。
感情任せに追い打ちをかけようとしたヴィクトルだったが、その時生々しい疵痕が残る純の膝が目に入り、無意識に動きを止めた。
そのせいで不用意に上げた片足から均衡を崩してしまい、その身体が大きく揺らいだ。
「!」
前のめりに転倒しかけたヴィクトルに気付いた純は、咄嗟に彼の腕を引いて抱き込む。
数秒後、露天風呂に盛大な飛沫と水音が上がった。
