第4章 日露2大怪獣・ゆ~とぴあの決戦。
「俺のついた餅だ。ちゃんと味わって食えよ!」
「あ、有難う…って、あ、ユリオ?」
半ば押し付けるように、餅の入ったプラスチック容器を勇利の前に突き出したユーリは、そのまま紅潮した顔を隠すように風呂場へ直行した。
夜になってから西郡ファミリーやミナコ達が『ゆ~とぴあ かつき』に訪れ、宴会場での忘年会が始まる。
「ち、ちょっとヴィクトル。くっつき過ぎ」
「えー?つれないなあ。…さっき俺の内腿に歯型や痕つけた人に言われたくない」
ボソリと耳元で甘く囁かれた勇利は、酒だけが原因でない熱さに頬を染める。
「ええ加減にしときや。子供も見とんねんで」
「俺はガキじゃねえ!けど、サユリに同意見だ。所構わずいちゃついてんじゃねえよ!」
勇利を挟んでヴィクトルの反対側にいたユーリは、片足を伸ばして勇利を蹴りつけようとしたが、背後から純の冷ややかな視線を感じると、咄嗟にその足を勇利の足の裏に乗せるに留めた。
暫しの歓談の後、優子が「未だ編集し切ってはいないんだけど」と、昨日行われたアイスキャッスルでの発表会の映像を取り出し、そのまま宴会場のTVで上映会が始まる。
その内に、ある少女のプログラムが始まった瞬間、ヴィクトルとユーリの聴覚を、とある声が刺激した。
「この声は…」
「…カツ丼?」
「あ、やっぱり判ったみたいね。そう!実はこのBGM、勇利くんの歌と純くんのピアノ伴奏なんだよ!」
「全日本選手権のEXに続き、ある意味これも勝生勇利と上林純の夢のコラボ!」
「スケオタとしては、この動画も是非UPしたい所ですが…」
「やったらママからお年玉減額を言い渡されてしまったので、涙を飲みました」
「あーかーん。あくまでコレは、音源失くしたあの子の緊急処置や。僕も勇利も音楽のプロと違うんやし」
3姉妹を窘めていた純は、不意にあまり好意的とは呼べない視線を感じたが、その場は気付かないふりをした。
上映会が終わり西郡達も帰宅した後。
純は、熟睡しているユーリを起こさぬよう部屋を出ると、「自由に入って良い」という言葉に甘えて露天風呂に向かった。
冬の夜空を仰ぎながら息を吐く純の耳に、無機質な音が聴こえてくる。
「…考えとる事は、一緒みたいやな」
振り返った視線の先には、『銀盤の皇帝』の姿があった。