第3章 超局地的寒気団、襲来。
勢い余ってベッドに倒れ込んでしまった2人は、そのまま離れることなく一度視線を交わすと、やがてどちらともなく唇を重ねた。
はじめは触れ合うだけだったのが、徐々に唇を戯れに喰むような仕草を繰り返す。
「ゅぅ…り!ストップ!」
しかしこのままだと流されてしまいそうで、ヴィクトルは、己のセーターの裾から手を忍ばせながら首筋に顔を寄せてきた勇利を押しのけた。
「何か、誤魔化そうとしてない?」
「し、してないよ!ただ、久々に夢じゃない本物のヴィクトルに触れられたと思ったら、つい…」
顔を真っ赤にさせながら弁解する勇利だったが、思い直したようにヴィクトルに向き直ると、言葉を続けた。
「僕は、ヴィクトルのお蔭でスケーターとしての自分に自信を持つ事が出来た。いくら感謝しても足りないくらいだ。そして、前も言ったけどその礼はスケートで返したい。今後、選手としてのヴィクトルや皆と戦う為にも。それには、ヴィクトルコーチの教えを忠実に守るだけではなく、ヴィクトルにも出来ない僕だけのスケートをする必要がある。だから、僕は純に助力を頼んだんだ」
勇利の口からハッキリ「戦う」という言葉を聞いたヴィクトルは、思わず目を見開く。
「純はあの怪我さえなければ、きっともっと世界で活躍できたと思う。身勝手な申し出にも関わらず、純は僕の願いを聞いてくれた。全日本では、ヴィクトルコーチが不在でも僕は充分世界を相手に戦える事を証明したかったんだ。特にEXはヴィクトルや皆を驚かせたかったのもあるしね」
「驚いたどころじゃないよ。俺のいない所で勝手な真似をして」
しかし、ヴィクトルもあの全日本でのEXが、間違いなく勇利の新たな魅力を引き出していた事は判っていた。
「只のお粗末な即席EXなら、鼻で笑ってやろうと思った。だけど、あれは紛うこと無き勝生勇利に相応しいプロだったから…その分余計に腹立たしかった」
「ヴィクトル…」
「きっと俺は、自惚れてたんだろうね。そして、コーチでありながら何処かで勇利の能力を侮ってたんだ」
「でも、ヴィクトルを驚かせる事が出来て僕は満足だよ。これからもっと…驚かせてあげるから」
眼鏡を外しながら再度自分の上に伸し掛かってきた勇利の背にヴィクトルは腕を回すと、先程よりも深く求めるような口付けに理性が溶かされていくのを全身で感じていた。
