第3章 超局地的寒気団、襲来。
「災難やったなあ。疲れとるトコ更に連れ回してしもて、ホンマにゴメンな」
「…別に。あいつらと一緒にいるよかマシだし」
「向こうに着いたら、折角やから僕らも餅つきさせて貰おな。つきたてのお餅はよう伸びて美味いで」
他愛ない会話をしながら、ユーリと純は『アイスキャッスルはせつ』までの道を歩いていた。
途中純が優子に連絡をしたらしく、ユーリのスマホに彼女からの歓迎のメッセージが届き、僅かに表情を緩める。
勇利より若干背が高く一見のほほんとした風貌を持つこの日本人が、その実相当強かな人物である事を、ユーリは先程の短時間で嫌という程把握していた。
(あの時ジジイ睨んでたコイツの目、底の見えない湖みたいな色してたからな…)
だが、タイミングはともかくユーリが一度純に会ってみたいと思っていたのもまた事実で、勇利もヴィクトルも傍にいない今はある意味好機ではないだろうか。
そう考えたユーリは、純の横に並ぶと口を開いた。
「カツ丼と怪我する前のアンタって、どっちが強かったんだ?」
「僕と勇利が?アハハハ、そんなん勇利に決まっとるやんか。おかしな事訊くコやなあ」
眉根を下げながら答える純は、笑いを引っ込めた後で少しだけ寂しそうな、それでいて何処か達観した表情になる。
「競技者としての僕は、勇利の足元にも及ばんかった男や。それ以前に、勇利は僕の事なんかまるで眼中になかったからなあ。…あの子が見てたんは、昔も今もただ1人」
続けられた言葉は、まるで鉛のようにユーリの胸にも落ちてきた。
「待ってよ、何で僕と純が?」
「勇利にその気がなくても、向こうは判らないだろ!」
「それに純には恋人がいるし」
「彼女とヨロシクしてる一方で、勇利とも付き合ってるバイかも知れないじゃないか!」
「だから!えっと…ヴィクトルにとっての僕のような人が、純にもいるの!」
情緒不安定気味なヴィクトルの詰問に、勇利は内心たじたじになりながらも懸命に誤解を解こうとする。
「ヴィクトルは、そんなに僕の事が信じられない?」
「違う!違うけど…!」
「貴方と離れて僕が何とも思ってない訳ないでしょ?最近じゃ、肖像権アウトな貴方の夢を何度も見てる位なんだよ?」
抱き寄せてきた恋人の体温と下腹部の硬さに、ヴィクトルは赤面した。