第3章 超局地的寒気団、襲来。
「勇利ー。純くんおったと…あら!ヴィっちゃんにユリオくんも!」
突然の訪問にも関わらず、変わらぬ優しい笑顔と共に歓迎の意を表した寛子に、ヴィクトルと純は長旅や雪掻きによる疲労も手伝い、一時口論を中止すると家の中に入った。
「アンタが一番話したい、話すべき相手は僕と違うやろ?」
未だ何か言いたげなヴィクトルを伏し目がちにいなした純は、勇利にも「あのデコが今一番聞きたいのは、君の言葉や」と告げると、ユーリを連れて『アイスキャッスルはせつ』で行われる餅つき大会に出かけてしまった。
ヴィクトルが使用していた部屋は、彼の帰国後間もなくソファやベッド等を撤去してしまったので、勇利はどこかぎこちない様子でヴィクトルを自室へ案内する。
ベッドをソファの代わりにヴィクトルを坐らせた勇利は、自分も腰掛けようと椅子に手をかけたが、少し考えた後でヴィクトルの隣に腰を下ろすと、彼の白い手の上に自分のそれをそっと重ねた。
「まず、会えた事は素直に嬉しいよ。ロシアナショナルも、優勝おめでとう」
「…有難う」
愛する人からの思わぬアプローチに、ヴィクトルは柄にもなく鼓動が早まるのを覚える。
「でもね、ここまでして来る必要は本当にあったの?ヴィクトルはもう、僕のコーチだけじゃないんだよ?来月のユーロやその先のワールドを控えた選手でもあるんだ。2月の四大陸の会場が韓国だから、その時に長谷津で会おうって言ったよね?」
「だって、勇利は…!」
「僕が?」
訳が判らないと言った様子で困惑する勇利に、ヴィクトルは内心の誤魔化しきれない嫉妬のような感情を持て余していた。
これまで結構な恋愛経験を重ねてきたのに、勇利を前にすると、まるで初恋に振り回された思春期の子供のような気分になる。
「どうしてあの子がここにいるんだい?」
「純には全日本の時に色々世話になったから、そのお礼代わりだよ。これまで僕達、長い間一緒に競技してたにも関わらず、殆どお互いの事知らなかったから」
「…本当にそれだけ?」
「え?」
「やっぱりガイジンと恋愛するより、日本人との方が良いとか思ってるんじゃないの?あの子、黒い瞳に黒髪って俺と正反対の容姿してるし、俺より昔から勇利の事知ってるみたいだし!」
「…何でそんな発想に行き着くの!?」
突拍子もない恋人の発言に、勇利は呆れ返った。
