第3章 超局地的寒気団、襲来。
「ユリオ!?君、どうして」
「いいから早く何とかしろよ!全部お前のせいだぞ!」
「え?え?ていうか、何でユリオもヴィクトルもここにいるの!?」
「……何?勇利は、俺が来たら迷惑だったの?」
ユーリにしがみつかれた勇利は、目の前の光景に文字通り「現実を受け止めきれない所だよ!」になっていたが、シベリアの永久凍土のようなヴィクトルの視線を感じて、我に返った。
「ち、違うよ!僕だってヴィクトルに会いたいって思ってたし、昨夜も夢に出…じゃなくて!来月早々にユーロ選手権があるのに、大丈夫なの!?」
勇利の言葉にほんの一瞬だけ絆されそうになったヴィクトルだったが、そんな自分を冷ややかに眺めている純に気付くと、表情を引き締めた。
「俺、勇利のコーチだよ?教え子のコンディションに悪影響を及ぼすような事があれば、即対応しないと」
「こっちの事もよう知らんと、言いたい放題やなあ」
ロシア語でも何処かのんびりとした口調と、そこに含まれた棘のようなものは変わらず、純は改めてヴィクトルと無意識に勇利に腕を絡ませているユーリを見る。
「僕は、ちゃんと勇利やご家族の許可を得てここにおるんや。勝手に勇利が迷惑がっとるみたいに言わんといてくれるか?あと…アンタはともかく、何でこのコまで来とんねん?」
近付いてきた純に、ユーリはやや慌てた様子で、それまでしがみついていた勇利から離れる。
「プリセツキーくんやったな。先日のGPFは優勝おめでとう。シリーズでの取り澄ました演技も綺麗かったけど、僕はファイナルのFSが、人間臭ぅて一番好きやったわ」
「あ、そ、そうかよ…」
素直な賞賛の言葉を耳にして、ユーリは照れ隠しに横を向く。
「せやけど、オフならまだしも未だ試合控えてて大事な時期なんやから、こんな時まで律儀に付き合う義理はないやろ?何で来てしもうたん?」
「…じゃねぇ」
「は?」
「付き合いなんかじゃねえよ!そりゃ、いずれカツ丼経由でアンタにも会えればとか思ってたけど、パスポートごと拉致されたんだよ俺は!あのオヤジに!」
喚くように返されたユーリの言葉を聞いて、純の顔から一瞬表情が消える。
直後、眉と垂れ目気味の黒い瞳を怒りの形につり上げると、そのままヴィクトルへと大股に歩を進めた。