第3章 超局地的寒気団、襲来。
時折近所の常連客や道行く人に声をかけられながら、勇利は周辺の雪掻きを続けていた。
「そういえば、初めてヴィクトルが長谷津に来た時も、こんな雪の日だったっけ…」
『勇利!俺はお前のコーチになる!そして、GPFで優勝させるぞ♪』
目を閉じれば、あの日の出来事が昨日のように脳裏によみがえって来る。
「…次こそ、果たさないと」
それはハッキリ言って険しい道程だが、不思議と勇利の心は安らいでいた。
ヴィクトルと過ごした8ヶ月で、それまで身近にありながら拒否していた『L』を実感できたからだろう。
昔から応援し続けてくれた家族や幼馴染にファン。
そして何より最愛の人のそれが、今の勇利にはある。
「そういえば…純とはどういう関係になるんだろう?同期だったけど、これまでプライベートな事は全然話せてなかったから、友達…と呼ぶにはちょっと図々しいかな?」
そんな風に勇利が考えていると、正面入口から寛子が声をかけてきた。
「熱~いお茶ば入ったから、休憩にせんね。純くんは、どこにおらすと?」
「裏口の雪掻きしてくれてるんだ。僕、呼んでくるよ」
そう返事をすると、勇利は裏手の従業員通用口に向かって歩き出した。
巷には「目と目が合う瞬間に好きだと気付く」という大変ロマンチックな歌があるようだが。
「まさか、こんな所で君に会うとはね…人のいない間にコソコソ泥棒猫みたいな真似して、何やってるの?」
「…英語使わんでも、ロシア語で『ニェット プラブレーム』やで。まさか恐れ多くも『銀盤の皇帝』から、開口一発そんな俗塗れの言葉が飛び出すなんて…なあ?」
この2人には全く該当しなかったようで、凍てつくようなヴィクトルの蒼い双眸と、底知れぬ闇を孕んだ純の黒いそれが交錯していた。
互いに「何でコイツがここにいるんだ」という本音を隠しつつ、ヴィクトルの皮肉交じりの英語と純によるロシア語の応酬に、ヴィクトルの隣にいたユーリは背筋が寒くなるのを覚える。
「純。母さんがお茶煎れてくれたから休憩にしよう…って、えええぇっ!?ヴィクトルっ!?」
「──カツ丼!?」
言いようのない迫力に気圧されていた所へ現れた勇利を見つけたユーリは、直後弾かれるように彼の傍へと駆け寄っていた。