第1章 1
「やっぱりここにいたか」
『っ…先生』
屋上に行ってみれば柵に体を預けて春独特の風を感じている 朱音の姿があった
それはとても綺麗で
とても儚くも見えた
『…聞いたんですか?』
否定すると心底ホッとした表情を見せた
『あたし、最低なんです』
それからポツリポツリと話してくれた
『月夜先生は三年前にあたしがいた学校の時の担任でした。当時は若くて容姿も心も綺麗で優しい月夜先生はみんなの憧れで、もちろんあたしも先生を慕っていました』
懐かしむ様子もなくただ言葉を並べているだけだった
『でも…月夜先生はあたしが助けを求めて手を伸ばしても…何もしてくれませんでした。分かってます、全部自分の責任だって。分かってます、自分でどうにかしなきゃいけないことくらい。…分かってます、月夜先生は何も悪くないことくらい。でもそう簡単に割り切れないんです。あの時先生が傍にいてくれたら少しでも違ってたんじゃないかって。最低ですよね、あたし』
「…そんなこたァねェさ。朱音はちゃんと気付いてるじゃねェか。本当に最低な奴ってのは相手のことを理解しようとしない、自分に溺れている奴だ。無理に月夜を受け入れようとしなくていい。徐々にでもいいじゃねェか。もし立ち止まったりする時が来れば、横を見ろ。俺達がついてる」
バフッ
身体に別の重みが来たと思えば朱音が飛び込んできていた
ゆっくりと朱音の頭をなでる
『ありがとう…先生ありがとう!』
「…気にすんな」
すると校門の方から鋭い殺気が放たれているのに気付いた
何も起こらなきゃいいがな…
それは無駄な願いだとは気付いていたが、今の朱音を見ていると願わざるを得なかった
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