第10章 短編その1「春雨宿り」~明智光秀~
光(この女は俺が欲しがっていい女じゃない、こんな後ろ暗い俺が手を出していいような女じゃない・・・・)
心の中でどうやって言い含めても、光秀の気持ちがどんどんと膨らんでいく。欲しい・・。欲しいと。
光(あぁ・・ダメだ、抑えられない。この俺が、こんな小娘に・・・)
そう思ってその肩を掴んで褥に押し倒した。そして麗亞に覆いかぶさった。
「すぅ・・・・。」
その時には既に麗亞は寝息を立てて寝てしまっていたのだ。
その光景を見た瞬間。今まで張りつめていた欲望が一瞬にして霧散してしまう。
光「ふふっ・・・・ふふ・・・この俺が・・・小娘に愚弄されるとは・・。」
疲れ切っているのか、すやすやと寝息を立てている麗亞の無邪気な顔を見ると、さっきまでの獣のようなギラギラしたものが溶けてなくなっていくのが解る。
光「俺を何だと思っているのだろうな・・・こいつは。俺も男だというのに。」
頬を撫で上げると、ピクリと身体が震える。細い首筋、華奢な肩。袖から見える腕は一ひねりすれば折れそうな程だ。
「ん・・ぅ・・・光秀・・・さん・・・。」
どんな夢を見ているのだろうか、光秀の名を口にした麗亞。
光「いつか、嫌と言うほど解らせてやろう。俺の気持ちを・・・。その時お前はどんな顔をするだろう。」
そう言うと、光秀はすやすやと寝ている麗亞に口づけた。
そして、その体を抱きしめ互いを温め合うようにしながら、光秀も目を閉じた。
次の日・・・
先に目を覚ましたのは麗亞だった。目の前に光秀の端正な顔が有ったのだ。
色素の薄いサラサラの髪、そして閉じられた目には長いまつ毛が。自分のまつげより絶対長いんじゃないかと思う。それに色気さえも感じてしまう。
「綺麗・・・。」
その頬にそっと触れる。すると腕がさらに麗亞をきつく抱きしめた。そして愛おしい者でも抱くように、麗亞の後頭部にそっと手を添えた。
(うっ・・・動けない、どうしよう・・・。)
さっきより嫌に近くなり、顔が光秀の胸に埋められるような格好になっている。その何とも言えない香りが鼻をくすぐる。
(何の匂いだろう・・・?そういえば光秀さんいっつもこの香りがするような気がする。この香り何なのかな?)