第10章 短編その1「春雨宿り」~明智光秀~
ポタリ・・ 自分の上から滴が垂れるのを見たときハッとした。
光「麗亞・・。」
「はいっ?!どうしましたか?」
麗亞をみるとやはりまだ髪が濡れているようだ。麗亞が手に持っていた手ぬぐいを奪い取る。
光「座れ・・・お前もまだ髪が濡れている。」
手を引いて麗亞を座らせると光秀は麗亞の髪を優しく拭き始めた。
光「お前と言うやつは・・・いつも、人の事ばかり先に。少しは自分の事も考えろ。」
そこが麗亞の良い所とはいえ、あまりに無鉄砲な時も時々あり、心配が絶えない。茶屋の店主を助けるために、浪人の前に立ちはだかったり、落とし物をした人を追いかけて、人さらいに逢いそうになったり。本当に目が離せないのである。
「あ・・・ありがとうございます。でも・・・光秀さんも濡れてるし、着物も早く乾かさないと・・・」
モジモジしながら心配そうな目を向ける麗亞に光秀はおもむろに上の着物を脱いだ。世も更けて来て、寒さが薄い襦袢を着ていても堪える。
光「寒くはないか?もっと火を起こそう。」
薪をくべながら、火を少し強くする。
それでもやはり外からの空気が入ってくるのか、囲炉裏に当たっている所以外は寒く感じる。
「・・くしゅっ・・」
小さく控えめに何度目かのくしゃみをする麗亞に光秀は見かねて、長持ちから褥を取り出した。この上の方が板の間の上より少しは暖かいだろう・・と。
光秀「こい・・・麗亞。」
おもむろに手を引かれて立ち上がらせると褥の上に座らされる。そしてその後ろから光秀が背中から覆いかぶさるように抱きしめる形で座った。
「ア・・アの・・光秀さんっ・・・」
光「この方が暖かいだろう・・。」
光秀は中に入っていた着物を羽織り、そして麗亞ごと包んだ。
「あ・・・たたかいです・・・。」
麗亞は背中に感じる光秀の温もりに、そわそわした。心臓が早鐘のように鳴る。このままじゃ光秀にも聞かれるのではないかと思うくらい。
光「俺も温かい。お前は何と温かいんだろうな。」
麗亞の首元に光秀の額がコツンと乗せられる。麗亞と触れ合った所がやけに熱くて、光秀の心臓も今までになく落ち着かない。
光(この気持ちは一体。本当にどうしたのだろうか)