第10章 短編その1「春雨宿り」~明智光秀~
(でもこの香り嫌いじゃない・・なんか落ち着く・・・)
光秀の腕の中の温もりがこんなに心地いいなんて思ってもみなかった麗亞。いつもは狐のように無表情で、何を考えているのか読めない光秀が、子供の用にすやすやと寝ている姿なんて一生見られないかもしれない。
そうっとまた首を上げて光秀の顔を見上げる。さっきより顔が近い。
すると、ふと光秀の手が麗亞の顎をそっと掬いあげると。
「ん・・・ぅ・・。」
光秀に口づけられる。初めは触れるだけだったのだが、手が頬を伝いしっかりと固定される。するとうすら開いていた、歯列から舌が入り込む。
「ぁ・・ぅん・・・。」
光秀の熱い舌が麗亞口の中に入り込み舌を絡めとる。
(キス・・・されてる・・・・!?どう・・して)
「ぅふ・・・んぅ・・・」
だんだん深くなっていく口づけに、息継ぎの仕方も分からず、だんだんと苦しくなっていく麗亞
いよいよ駄目だと思った時唇が離れた。
「はぁっ・・・はぁ・・・はぁ・・」
肩で息をする麗亞に光秀が耳元で囁く。
光「口づけの仕方も分からぬ小娘だとこれから先困るんじゃないか?」
「もぅぅっ!!み・・・みつひでさっん!!」
顔を真っ赤にしてグーで光秀の胸元をどんどんと叩く。
しかし、その力強さがどんどん弱くなり、とうとう叩くのをやめてしまう。
そして俯いてしまった麗亞を光秀は不審に思い声を掛けた。
光「どうした?怒ったのか・・・?」
「どう・・して・・・。どうして口づけたんですか?・・・またからかったんですか?」
光「どうしてと言われても・・・・目の前でお前がまじまじと俺の顔を覗いていただろう。」
麗亞が光秀を見た時、その表情に思わずドキリとした。
瞳は潤んで、頬は桜色に染まり、何かを乞うような顔だ。
「私は・・・まだ小娘かもしれません・・でもっ、でもっ。こんな口づけされたら、私っ・・勘違いしてしまいます・・から。」
潤んだ瞳から一粒ポロリと涙が零れた。
光「どんな・・・勘違いだ?お前の言う勘違いは。」
光秀の心臓がドキドキと早鐘を打ち始めた、その答えに何を期待しているのだろう。手を伸ばしてもいいのだろうか?この自分が、欲しがってもいいのだろうか?心の中で色々な感情がせめぎ合う。