第10章 短編その1「春雨宿り」~明智光秀~
小屋の中にある、囲炉裏に火を起こす。添えつけられた行燈にも残されていた蝋燭に火を灯すと暗かった小屋が明るくなった。
光「さあ、こちらに来い、火の側に。体が冷えただろう。」
麗亞は光秀の呼びかけで、囲炉裏の側にきて座った。
「勝手に入っても大丈夫ですかね?」
光「なに、山師がきたらそれは事情を話すしかあるまい。だが、小屋の雰囲気で暫くここには来ていないようだ。」
「っくしゅん・・・!!」
両手で自分の身体を抱きしめている麗亞が微かに震えている。
光「寒いのか?」
「だ、だいじょぅぶですっ・・・ホッとしたらなん・・か」
全てを言い終わる前に
「っくしゅん!」
光「寒いのだな・・・やはり。」
光秀は周りを見渡すと部屋の隅に長持があるのが見えた。
そこに行くとふたを開ける。どうやら寝具が入っているようだ。褥と上に掛ける着物か・・・。
光「麗亞その濡れた着物を脱ぐんだ。」
「へっ?!!!!」
光「早く、下の襦袢まで濡れる前に脱いで乾かすぞ。」
きょとんとしていたが、その言葉を暫らく考え理解したのか、立ち上がって部屋の隅のうす暗い所に行く。
「み・・・見ないでくださいね。」
光「だから言っただろう?色気が足りないと。」
囲炉裏の前で背中に麗亞の声を聴きながら、光秀はくすりと笑みを浮かべる。
しかし、シュルシュルという帯の衣擦れの音が嫌に耳につく。そしてチラリと後ろを見ると薄暗いはずなのに、襦袢姿になった麗亞の後ろ姿が、そして微かに覗くうなじの白さに目が釘付けになった。
光(さっきから俺はどうかしてる・・・。)
その気持ちを振り切るように、囲炉裏の方をまた見つめた。
光「脱いだか?」
「あっ・・はい。」
立ち上がると光秀は麗亞を囲炉裏端へと連れ戻す。
「あ、あのっ・・」
此処で火にあたるんだ。そういうと、麗亞が脱いだ着物を囲炉裏端に横に置く。これで少しは乾くのが早いだろう。
「光秀さん髪が・・・。」
麗亞がキョロキョロとあたりを見渡す。すると入口の方に手ぬぐいが掛けられているのを見つけた。
「よかった拭くものが有りました。動かないでくださいね。」
そういうと、麗亞は光秀の頭を手ぬぐいで拭き始めた。