第10章 短編その1「春雨宿り」~明智光秀~
「美味しいですか?・・・って言っても、光秀さんには味が解らなかったんですよね…。」
少しシュンとする麗亞を見ながら、団子を口に運ぶ。
光「草・・・・の香りがする。」
「草餅ですからね。香りはするんですね。私も頂きます~」
一口団子を頬張ると、頬を高揚させて感嘆の声を上げる。
「はぁ~ん・・・美味しい~♪ 甘さもちょうどいいし。柔らかすぎず硬すぎず。やっぱりあそこのお茶屋さんが一番おいしいです~」
その顔を見つつ口に団子を運ぶ光秀。するとなんだか今まで味わったことのない、ふんわりと草の香りのなかに甘みが舌から伝わって来た。
光(な・・んだこれ・・・。味が解る?)
隣ではしゃぎながら草団子を食べる麗亞。すると突然に黙り込んだと思ったら。
「ぐっ・・・・・」
自分で手を握り込んで胸を叩き始めた。
光「バカっ・・・これを飲め!!」
慌てて茶筒を渡すと、麗亞は急いで飲んだ。
コクリ・・・と。飲みきれなかった茶が麗亞の口元から少し垂れるのを見た瞬間。なんだかドキリとした。
小娘だと思っていた麗亞なのに、何故か心の中がグッと熱くなり、光秀の中の男の部分をくすぐったのだ。
光(・・・っ・・・馬鹿な・・・。この俺が・・・)
「っっっはぁ!! 死ぬかと思ったぁぁ~!!」
麗亞の緊張感のない声にふと我に返った光秀が、眉をひそめて麗亞を見た。
光「慌てて食うな。団子とはいえ、侮れない、一年に何人かは正月に餅を詰まらせて死に至るのだぞ。」
「やっぱり、この時代でも餅を詰まらせる人がいるのね・・・」
光「この時代でもと言う事は、五百年先の世でも死ぬ奴がいるのだな。どんな時代でもお前のようなおっちょこちょいが居るものだ。」
それを聞いてまたむぅっと頬を膨らませる麗亞
「未来で死ぬのはお年寄りが多くて若い人はそんなことになりません。」
光「ほう・・・では、今のどに詰まらせていた奴はそんなに年よりだったのか・・・。」
「うっ・・・」
痛い所をつかれてぐうの音も出なくなる。そんな麗亞の頭にポンっと手を乗せて言った。
光「団子は逃げない、まだ時間もある、ゆっくり食べろ。」
その普段とは違う優しい眼差しに、麗亞の胸がキュゥっとなった・・・。