第5章 座学
フイに投げ掛けられた声。
隣のテーブルからミカサが訝しげにこちらを見ていた。
「先日から、野犬みたいな唸り声が聞こえてたってアルミンが耳にしたみたいだけど……。」
『え?そうなの?』
パンを一口齧りながら「なんだよ、その話。」とアルミンを一瞥すると、スプーンを置いて話し始めた。
「うん。入団初日辺り……くらいから、かな?兵舎の近くで、獣のような唸り声を聞いた……って、ハンナとフランツが話していたんだ。あと、しきりにパァンって奇妙な叫び声が聞こえるって話しも、野犬か何なのかは正体までは分からないけど。」
パァン?
獣の鳴き声にしちゃ妙だが。
最近の獣は、そんな鳴き声で鳴く程に進化したのか?
それとも、山とは程遠いところに住んでいたから、俺が知らないだけか?
眉を寄せる俺から少し離れた場所。
ブハッ。
飲み物を噴きこぼす音が聞こえたのでそちらに目をやると、ソバカスの目付きが悪ぃ女がゲラゲラと笑っていた。
確か、ユミルとか言ってたな。
「ダッハッハ!アルミン、野犬にしちゃぁ食意地が張りすぎてるみてぇだな!そりゃ、ただ単に、腹が減ったサシャの唸り声だよ!」
ユミルが席で笑う中、芋女が身体をビクつかせ、食器を揺らす。
クスクスと食堂内に広がる笑い声。
ポカン、とした表情のアルミン。
「え?そうだったの?」
サシャはよっぽど居心地が悪いのか、手をモゾモゾと動かしている。
「空腹で我を忘れてしまいまして……その……」
『あ、その事なら、私とクリスタがサシャにいつも食べきれなかったパンを持って行ってたから、じゃないかな?』
隣から聞こえた素っ頓狂な言葉。
「はぁッ!?」
呆れて言葉が見つからない俺を、ニコニコと笑いながら見ているミサキ。
『えへへ。』
えへへ。じゃねーよ!
犯人はお前か!ミサキ!
つーか、芋女!テメーどれだけ食い意地が張ってんだ!
「この御恩は忘れません!」
サシャは、恫喝で見られなかった立派な敬礼を、ミサキとクリスタに向けていた。