第6章 馬術
湖が見渡せる距離まで近付いてみると、やっぱりそこにはミサキの姿。
水面に反射する月の光を、ただ呆然と眺めているミサキ。
辺りには鈴虫の鳴き声が小さく響き、柔らかく空気を包む。
ミサキは木の幹を背もたれに、湖に足を投げ出していた。
今日は座学の復習をするわけでもなく、単にぼんやりしているだけのように見える。
その呑気な姿に気が抜けた。
……こっちは心配してきたっつーのに、なんだかバカみてぇだ。
「お前なぁ……、何で行き先も言わずに外出してんだよ。もぉ明るくねぇんだ。少しは身の振り方考えねぇと危ねぇだろ?」
俺の声に反応して、ゆっくりとこちらを向いたミサキと視線がぶつかる。
『……危ない、かな?……待ってたら、その内ジャンが探しにくるかと思って。』
「……待つな。頼むから夜の外出は控えてくれ。」
ミサキの言葉に驚くと同時に、嬉しさと、そして羞恥の気持ちが湧き、咄嗟に顔を逸らした。
待ってたって……
俺は何も聞いてねぇぞ。
探しに来なかったらどうしてたんだよ。
…………全く。
緊張感の欠ける奴だ。
せっかく探しに来たっつーのに脱力させるなよ。
「……何かあったのか?」
ミサキの側まで歩み寄り、小さな肩に、ミカサから受け取った羽織りを掛ける。
ミサキは俺から視線を外すと、再び湖を見つめた。
そんなミサキを横目に、静かに腰を下ろし、ミサキの長い髪を梳かすように手でなぞると、フワリ。甘い香りが漂う。
『今日……ね、生きて来た中で一番楽しかった。』