第5章 座学
強い眼差しでミサキとクリスタを見る芋女を無視し、俺は深い溜息を吐いてミサキに向き直った。
「お前、それで毎日の訓練持つのかよ?今日は座学だけだったから良かったけどよ。」
若干呆れつつミサキを見るが、本人はまるで何もなかったようニコニコしながら、スープを少しずつ飲んでいた。
誰かに何かをしてやる事。
別にそれを悪いとは言わねぇが、体力が必要になるこれからの訓練、少しでも力を付けておくべきだと思う俺は、ミサキに干渉しすぎなのだろうか。
大体、芋女も芋女だ。
少しは慎みってもんを覚えやがれ。
しかし、ミサキのトレーに置かれている、一口も手を付けた形跡がないパン……
まさか、今日も餌をやるつもりか?
軽く頭痛を覚え、こめかみを揉む俺と、それを苦笑いしながら見るコニー。
「サシャの食い意地には呆れるな……。確かに俺等もこんな粗食じゃ足りねぇけどよ。」
そりゃ同感だ。
俺達、今が成長期なんだぜ?
パンの一切れなんかじゃ腹なんかいっぱいにならねぇし、普通は肉の一つでも食いてぇもんだ。
「そうだぞ、お前。食うもん食ってねぇと、いざって時に身体動かねぇだろ。」
隣のテーブルのエレンも加わるが、ミカサに鋭い眼差しを向けられる。
「エレンも話ししてないでちゃんと食べなさい。」
まるで親子の様なやり取りに、思わず口の中のもん吹き出しそうになっちまった。
『あははっ!ミカサとエレンは本当に仲が良いんだね。アルミンも。』
確かに。
エレンとミカサは家族だとは聞いてるが、ミカサのエレンに対する動向や言動には、家族以上のものを感じる。
それに反して、ミサキは誰にも同じ態度。
いや、別に羨ましいってわけじゃねぇんだけど。
……ちょっと寂しく思うだけで。
「ミサキ。お前も話してばっかしてねぇで、ちゃんと食え。今日はサシャに餌はやるなよ?」
ミサキのトレーに手付かずで置かれていたパンを、俺は千切ってミサキに渡し、ミサキの頭をソッと撫でる。
離れた席から芋女の悲壮な声が聞こえた気がした。