第5章 座学
開いていた書物にしおりを挟み、ミサキの手を取って立ち上がる。
少しだけ手を引くと、軽々と起き上がってしまうミサキの身体に衝撃を受けた。
……こいつ、こんな軽いがちゃんと飯食ってんのかよ。
「お前さぁ、そんな身体で体力あんのか?訓練兵っつーだけあって、体力面での訓練もあるんだぞ?」
ミサキの身体を上から下まで見やる。
女の中でも小せえ方なのに。
クリスタより少し身長はあるようだが、それでも、列に並べば他に比べて小柄だ。
マルコがコニーと話していた訓練の内容には、いささか力が弱い者や、体力がない者には負担の掛かる訓練も数多くあった。
自分でここに連れ出したのはいいが、今後の事を考えると少し心配しちまう。
『私は大丈夫。重労働にはなれてるし、意外と体力もあるから。そんな事より、ジャンの座学の方が心配だよ。今日、完全に寝ちゃってたし。』
「んなっ!?」
ミサキのストレートな言葉。
クソッ!
そんなどうでもいいところ、まだ覚えてたのかよ。
お前は文字を精一杯覚えなきゃなんねぇんだから、今日の事は忘れろ!
『……座学は苦手?マルコに教えて貰った方がいいかな?』
顔を赤くする俺とは対照的な、不安気なミサキの顔。
首を傾げてとんでもねぇ事言いやがる。
マルコだと?
何でマルコが出てくんだよ。
「昨日寝てなかったから……今日はたまたまだよ。分からねぇ事は俺に聞け。下手に文字が読めねぇとか周りに知られんなよ?」
なんて言いはしたが、寝てねぇなんて嘘だ。
お前との穏やかな時間。
この時間を他の誰が過ごすのが、少し嫌だった。