第5章 座学
「この世界において壁の建造は最重要事項であ」
『あぁー!ジャン、ちょっと待って!そんな一気に……ふりがな書くから!』
「ッ!!!??」
ガバッとミサキが書物にペンを乗せる。
「うわっ!ちょ、ちょっと待て!」
ミサキがペンを置いた書物。
それは俺の膝の上にある訳だから、必然的にミサキが寄り添う形になっていて……
距離が……
距離が近すぎる!!
『ジャン?』
この前は思わず抱き締めちまったけど、あれは身体が勝手に動いただけであって……
今の俺は心の準備がまだ出来ていない訳で、突然の出来事に心臓がバクバクと早鐘を打つ。
「……何でもねぇ。」
『そぉ?』
サラサラの長い髪をフワリと搔き上げる度に、ミサキからは独特な甘い香がして、近くで見る顔は、睫毛が長く、肌も赤ん坊のように綺麗な艶肌。
『建造は?続きお願い。』
膝に乗せている文献に文字を書く為に、下から見上げる形になっているミサキが上目遣いで聞く。
人の頭一個文くらいの互いの頭同士の距離。
おいおいおい。
その角度は反則なんじゃねぇか?
お前は「お友達」かも知れねぇが、こっちは一応男なんだぞ?
そして、こいつは全く分かっちゃいねぇが、好意を寄せている相手ときてる。
理性フッ飛んだらどうしてくれんだ。
絡み合う視線。
淡い茶色掛かった瞳、生意気そうに尖った鼻、ふっくらした唇、大きな目、白い肌……
ミサキはやっぱりこの世界の何よりも綺麗だった。