第1章 黄泉還り
「これからは、ここが君の家だよ」
薄く笑う壮年の男は、今から自分の事をお父様と呼びなさい。なんて冗談にしては笑えない事を言う。
豪華な家具に高価そうな絵画。
どれも見た事がないものだったけど、興味より先に、不安と恐怖でいっぱいだった。
屋敷の中は空調が効いていて、外の寒さなんて考えられない程暖かかったけど、ガタガタと身体が震えた。
そしてその予感は当たっていて……
それからの日々は、私のココロから一つ、また一つと、生きる意味を失くさせた。
折檻
恥辱
暴力
ココロが……
世界が………
黒くなっていく。
まともに食にありつけたのは給食だけで、義理母は、学校が終わると掃除や洗濯など全ての事をさせる。
食器を割ろうもんなら、痣が出来るまで叩かれる日々が続き、お風呂にさえまともに入れて貰えない私は、学校でも異質の存在だと比喩された。
胸に少しだけ膨らみを感じる頃には義理父や義兄弟の私への視線が変わり、薄暗い部屋で、学校の裏庭で、何度も……
何度も……
何度も……
悲鳴にならない声を上げながら、白濁の液体を身体中に浴びた。
その行為が何なのかも、もう知っている年だった。
そんな地獄のような毎日を送りながらも、歳は12になり小学校を卒業する日を迎え、ある希望を持って屋上に登る。
扉を開け、柵から見える夕陽はやけに赤く、まるで死者が流す血の色に似ていて……
『さようなら。汚い、世界』
ポツリ。
呟いて、舞うように堕ちた。
私が覚えているのはそこまで。
相変わらず辺りは真っ暗なままだけど、これが死と言うものなんだろうか。
『……目を覚ましたら病院のベッドだったりして………。』
なんて事、笑えない。
身体の感覚があるなら、きっと私は今ガタガタと震えているだろうな……。
そんな事を考えていると、急に頭が割れるように痛くなった。
頭痛は時を増すごとに増していき、変な耳鳴りさえ聞こえ出す。
少しづつ………
意識が遠のいていくのを感じた。