第1章 黄泉還り
『ま…待って!お母さん!』
遠くなる景色とは異色の赤色に、胸が騒つく。
まだ小学生にも満たない幼い私でも、この状況が良くない事くらいは理解出来た。
母と離れるのが怖かった。
意味が分からないこの状況が怖かった。
その封筒は何?
何で私を置いて行くの?
母の冷たい手に、寒さで震える私の手を伸ばす。
それが触れ合おうとした瞬間─…
ーバシッ
『…きゃ!』
母は腕を大きく振り、私を突き飛ばした。
「邪魔だ!私に触るな!!」
母の冷たい瞳が私を見下ろす。
「お前なんかの顔は見たくないんだよ!最後に金になってくれただけありがたいが、お前にそれ以上の価値はないんだ!!」
ガツン。と、鈍器で頭を叩かれるくらいの酷い衝撃に、言葉を失う。
踵を返し、再び背中を向けた母を、私は呆然と見つめた。
母が……
母が、私の目をちゃんと見て話した言葉は、これが、最初で最後だった。
壮年の男が私の肩を叩き、座り込んでいた身体を起こす。
「外は寒い。中に入ろうか。」
母の姿が遠くなる頃には、身体が、ココロが、冷たくなってしまったのを感じた。