第6章 desire
「さてと、それじゃ飯にするか…今日はしょうが焼きな」
「はい、よろしくお願いします」
智さんの後についてキッチンへ入った。
以前、智さんが料理を教えると言ってくれてから、智さんの家に来るときは、何か一品料理を教わるようになった。
はじめは本当に何も出来なくて、包丁の使い方から教わっていたが
智さんの指導がいいせいか、包丁はだいぶ使えるようになってきた。
これでいくらか自炊も出来そうだ。
出来上がったしょうが焼きを皿に盛り付け、リビングに運んだ。
他にも智さんが作っておいてくれた味噌汁とほうれん草の煮浸し、ひじきの煮物を並べ智さんの隣に座った。
「うん、しょうが焼き旨そう」
「ほんとですか?」
「ほんと、ほんと。始めの頃なんて、肉焼かせたら真っ黒に焦げてたのに、今日のはいい焼き色だよ」
「ありがとうございます。智さんの教え方がいいんですよ」
「まぁ、料理は愛情って言うからな…
翔が食べるんだから、美味しいもの作れるように、愛情込めて教えてやらないと…
翔への愛情なら誰にも負けないし」
ニコッと笑顔を見せてくれる智さん…
智さんは、度々こうして言葉にして、愛情表現をしてくれるんだけど
言われるこっちは恥ずかしくて、その度に顔が熱くなる。
「ははっ、また顔紅くしてる」
「だって、智さんがそんなこと言うから…」
「翔にははっきり言わないと伝わらないって、身を持って学んだからな」
そんなこと言われてもしょうがないじゃん…
智さんが俺のこと好きでいてくれたなんて、夢にも思わなかったんだから…
『付き合い出す前は、取引先の誘いを断らせるのが大変だった』とか
『岡田の魔の手から守るのが大変だった』とか
『待ち合わせ場所に早く着いて隠れて待っていた』とか
智さんに言われた時は、そんな前から想って貰えてたんだって知って嬉しかった。
だから俺も言ったんだ。
『岡田さんの誘いを断り続けてたのは、智さんからいつ誘われてもいいように、予定を空けておきたかったからですよ』って
そしたら智さんは、目を見開いて驚いたあと、嬉しそうに微笑んでくれた。