第6章 desire
「え~なになに?翔ちゃん引っ越しするの?」
雅紀が机を乗り越えるように身を乗り出してきた。
「うん、まあ…」
「なんで教えてくれなかったの?引っ越し手伝うのに」
「あの…手伝いなくても大丈夫だから…」
「え~、なんでなんで?」
なんでって言われても…
実は既に、智さんの部屋に、ある程度の荷物は運ばせて貰ってる。
そこから俺の部屋に運び込むだけだから、大した作業はない。
当日は、新たに買った家具と家電が配達されるだけなんだよな…
「智が手伝うんでしょ?」
「なんで大野さんに手伝わせるのに、俺は必要ないの~?」
「だって智と同じマンションに住むんだもん、智が手伝うの当たり前じゃん」
「えっ⁉︎翔ちゃん、大野さんと同棲するの?」
「ど、同棲っ⁉違う違うっ!違う部屋だから!」
「な~んだつまらない」
つまらないってなんだよ…雅紀は、俺と智さんの関係をどう思っているんだろう…
「でもさぁ、同じマンションに住まわせるなんて、智もどんだけ過保護なんだろうねぇ」
「気持ちは分かるなぁ、相手が翔ちゃんだし…」
「まぁねぇ、智も苦労してんだろうなぁ」
「俺がなんだって?」
智さんの声がして振り向くと、ちょっと不機嫌そうな智さんが立っていた。
「あー、お帰り智」
「お疲れさまです、大野さん」
ふたりは何事も無かったように、笑顔で智さんに挨拶した。
「お疲れさまです、智さん」
俺も笑顔で智さんを迎えると、智さんも笑顔を向けてくれる。
「ただいま」
「なにその違い。俺たちには不機嫌丸出しの顔してたのに」
「お前らが変なこと言ってるからだろ?」
「変なことじゃないでしょ?事実なんだから」
「だとしても櫻井の前で言うな」
「あの、俺、智さんに苦労かけてるんですか…」
俺いつ迷惑かけたんだろ…
「櫻井、そんな顔するな…大丈夫だよ、苦労なんてしてないから」