第6章 desire
独り暮らしをするマンションを、本格的に探し始めた。
智さんの近くに住めればいいなぁ、なんて考えていたんだけど、なかなかいい物件が見つからない。
そんな時、智さんが『うちのマンション空きが出るらしいよ』って教えてくれて
あまりにも近すぎるから『迷惑じゃないですか?』って聞いたら『その方が安心だ』って言って笑ってくれた。
智さんがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えてしまおうと、すぐに契約を結んだ。
これから、智さんと一緒にいる時間が増えるんだ。
楽しみだな…
引っ越しを週末に控え、ソワソワしていると…
「何かあるの?翔ちゃん最近落ち着かないよね?」
雅紀に突っ込まれてしまった。
「え、あっ…ううんっ、何もないよっ」
慌てて否定した。
智さんに口止めされてる訳ではないけど
同じマンションに住むなんて雅紀に言ったら、ふたりの仲を怪しまれそうで言えなかった。
俺は会社でも智さんを名前で呼んでるけど、智さんは会社では俺の事を変わらず『櫻井』って呼んでる。
きっと、特別な関係と思われたくないんだろうな…
まあ、しょうがない…
世間的には、男同士の付き合いなんてまだ一般的じゃないし…
智さんとお付き合いできるだけで幸せな事なんだから。
そんな事を考えていたら、営業から帰ってきた二宮さんに声を掛けられた。
「翔ちゃん、何か悩み事?」
「あ、お疲れさまです。二宮さん」
最近、二宮さんは雅紀の影響を受け、俺のことを『翔ちゃん』と呼んでいる。
智さんが、たまに不機嫌そうな顔をするけど、二宮さんは気にすることなく呼び続けてる。
「なに考えてんの?週末の引っ越しのこと?
何か手伝おうか?」
二宮さんに突然引っ越しの話をされ、びっくりした。
「え?あの、なんで…」
「ん、なに?」
「なんで引っ越しの話知ってるんですか?」
「あぁ、ここんとこ智の様子がおかしかったから、追求したら白状した。
あいつ分かりやすいんだよねぇ、ふふっ…」
やっばり二宮さんは侮れない。