第5章 rival
「腹減ったろ?飯にしよ」
キッチンに入っていく俺の後ろを、櫻井が付いてきた。
「はい…え?智さんが作ったんですか?」
用意してあった料理を見て、櫻井が驚いた。
時間が無かったから、大した物は作ってない…チキンソテーにポテトサラダ、昨日の残りの煮物があったからそれと、あとは味噌汁とご飯。
「そうだよ?簡単な物で悪いけど」
「凄い…全然簡単な物じゃないです。俺なんて、料理したこともない」
「え?お前、それでひとり暮らしすんの?大丈夫か?」
「スーパーのお総菜とかコンビニのお弁当があれば大丈夫かなと思って…駄目ですか?」
「ん~、駄目ではないけど、健康のこと考えたら毎日買い弁は良くないよなぁ…俺で良ければ教えてやるよ?」
「いいんですか?」
櫻井が嬉しそうな顔をした。
「おぅ、凝ったものは作れねぇけど」
「ありがとうございます」
料理を温め直し、ふたりで運んだ。
「んじゃ、食おう」
「はい、頂きます」
櫻井がチキンソテーを一口頬張ると
「おいしっ!」
ほんとに美味しそうな顔で食べてくれるから、嬉しくなった。
「良かった…教えるなんて言ったけど、口に合わなかったらどうしようかと思った」
「そんな心配全くないです。すっごく美味しい」
「お、胃袋掴んだか?」
「なんですか?それ…」
櫻井が首を傾げた。
「男を落としたかったら、旨い料理作って『胃袋を掴め』って昔から言うんだよ」
「へ~、そうなんですか?でもそれじゃ、俺が智さんのこと落とせない…」
櫻井が俯いて悲しそうな顔をした…そんなこと本気にするなんて、どんだけ可愛いんだよ。
「そんな顔すんなよ…料理なんて出来なくても、俺はとっくに櫻井に落とされてるよ」
「…ほんとに?」
上目使いで俺を見るその表情だけで、充分やられちゃうって…
「ほんと…ネクタイ贈る意味教えてやろうか?」
「え、いいんですか?知らなくていいって言ってたのに」
「今ならいいよ…その代わり俺以外の奴からネクタイ貰うなよ?」
「はい、分かりました」
「『貴方に首ったけ』…」
「え?」
「だから『貴方に首ったけ』って意味なの」
そう言ってやると、櫻井の頬はみるみる紅く染まった。