第5章 rival
松岡さんの店を出て、ふたり並んで歩く。
今までよりも少し近い距離…
たまに触れ合う手が愛しくて…掴まえて、そっと握るとそっと握り返された。
隣を見ると、頬をピンクに染めて、俯き加減で歩く櫻井…
俺の視線に気づいたのか、こちらを見ると恥ずかしそうにニコッと笑う…
あぁ…ここが外じゃなかったら、今すぐ抱きしめるのに…握った手に力を込めた。
夜も遅い時間、住宅街に人の姿は無く、誰に邪魔されることもなく、手を繋いだまま家にたどり着いた。
家に上がっても、櫻井の手を引いたまま歩いていく…リビングに着くと手を離し、櫻井を抱きしめる。
突然抱きしめられて驚いたのか、櫻井はビクッとした。
「…智さん」
困惑気味な声…
「なに?」
「あ、いえ、なんでも…」
緊張してるのか、体から力が抜けない櫻井が可愛くて仕方ない。さっきはしがみついてきたのに。
「緊張してるの?」
「え?」
「体…力が入ってる」
そう言って、俺より少し背の高い櫻井の顔を覗き込んだ。
櫻井の顔は真っ赤に染まってる。
「緊張してます…」
正直に答えちゃう櫻井が、また愛しい…
「ふふっ、そんな緊張しないでよ…」
「…無理です…」
「なんで?」
「今までだって、智さんに触れるだけでドキドキしてたのに
こんな風に抱きしめて貰えるなんて…嬉し過ぎて…体に力入れてないと泣いちゃいそうで…」
お前は女子かっ!いや、今時の女子なんて、そんな可愛いこと言わないぞ?!
ニノ~、お前の心配必要ないわ~…こんな純情な奴に手なんて出せないよ…
松岡さん…この先も間違いなくこいつに苦労させられそうです…
これ以上抱いてたら、こっちの身が持たない…抱きしめていた腕をそっとを離した…
「智さん?」
急に離れた俺を不思議に思ったのか、首を傾げる…
俺の理性は、そんなに強固な物じゃないんだよ?
櫻井、これ以上可愛い姿を俺に見せんな…