第5章 rival
「えっ?」
「はっ?」
櫻井と松岡さんの驚きの声が同時にあがった。
「え…う、そ…智さんが…さと、くん?」
「そうだよ?16年前、桜の木の下でキーホルダーあげたのは俺だよ?
俺の初恋の相手はお前で、16年経って再会して、好きになってたのもお前…」
「…マジか…」
松岡さんが小さな声で呟いた。
そりゃそうだ…こんなこと、簡単に信じられる事じゃない。
「なんで?…なんですぐに教えてくれなかったんですか?」
櫻井の瞳に涙が浮かんできた…
「お前がまだ『さとくん』のこと好きみたいだったから…俺だって教えたら、幻滅するんじゃないかと思って」
「そんなことない…智さんは最初から素敵な人でした」
「ごめんな?早くお前の気持ちに気づいてやれば良かった…」
「俺、智さんに好きな人がいるって知ってから、智さんのこと好きなんだって気づいて…
だから必死に隠して…この気持ちは駄目なんだって…好きになっても無駄なんだって…
そう思えば思うほど苦しくなって…それなのにやっぱり一緒にいたくて…」
櫻井の瞳から涙が溢れた。
そっと櫻井を抱きよせると、櫻井は俺の肩に顔を埋め俺の洋服をぎゅっと握りしめた。
「ごめん、辛い思いさせて…」
櫻井は頭を横に振った。
「いいんです…智さんとさとくんが同じ人だなんて、大好きな二人が同じ人だなんて…こんな嬉しいことはない…」
ゆっくりと顔をあげた櫻井は、とても綺麗な笑顔を見せた。
「…あのさぁ、お取り込み中なとこ悪いんだけど、俺的にはもうスッキリしたから、後は帰ってからにしてくれる?
一応、俺さっきフラれたばっかだし?これ以上ふたりのイチャイチャ見たくないんだよね」
俺と櫻井は松岡さんの存在を思い出し、慌てて離れた。
「すみません!」
「ごめんなさい!」
「ははっ、もういいよ。
そんな運命的な出逢いされてたらさ、割り込む余地ないしな」
松岡さんが櫻井の前に立つ
「翔、今度はいい返事出来んだろ?
幸せになれよ、てか、してもらえよ?」
松岡さんの言葉を聞き、櫻井が俺を見る。俺は笑顔で頷いた。
櫻井は松岡さんに向き直り、少し照れたように微笑み、答えた。
「はい…」