第5章 rival
「松岡さん…ごめんなさい…」
「なんで謝ってんだよ」
「だって俺が松岡さんの気持ち、ちゃんと解ってればこんなことにならなかったから…」
「あのさー、お前お人好しにも程があんだろ…自分が襲われた立場だって分かってる?」
「でも…今まで良くして貰ってたし…」
「男なんて、好きな奴の前だったらいくらでもいい格好するよ」
「それでも…優しくして貰ったことには変わりないから」
「…もういいよ。俺が勝手にしてたことなんだから、お前が負い目を感じる必要はない。
現にお前の気持ちを動かした奴がいるんだろ?
だったら俺に何か足りなかっただけの話だよ」
櫻井はほんのりと頬を染めた…
「翔、最後にひとつだけ忠告していいか?」
「なんですか?」
「過去に好きだった奴に貰った物を、いつまでも身に付けてんなよ…じゃないと勘違いされるぞ」
松岡さんはそう言って櫻井の胸元を指差した。
櫻井はピンクの石を取り出した。
「でもこれ、智さんが『櫻井の色』だって言ってくれたから…
同じ色のネクタイもプレゼントしてくれたし」
「それが理由で外さないのか。ははっ!ならしゃあない
それにしてもあんたベタなことしてんな?ネクタイプレゼントなんて」
松岡さんが可笑しそうに笑った。
「やっぱりネクタイって、特別な意味あるんですか?」
「なに?お前知らないの?」
「はい…智さんも知らなくていいって言うから」
「なら知らないでいいんじゃないか?」
松岡さんが俺を見た。
「俺から言うことでもないけど、翔のことよろしくな?
色々苦労すると思うけど」
「そうですね、苦労はしてます。今日もそうですし」
「ははっ、悪かったな。
しかしまぁ惜しかったな…もう少しあんたが着くの遅かったら、キス出来たのに」
「させませんよ」
松岡さんは櫻井に向き直ると、優しく微笑んだ…
「幸せなれよ…」
「…それは無理です」
櫻井は俯き、寂しそうに呟いた…