第5章 rival
「大体さぁ、いつまでも叶わない『初恋の君』想っててもしょうがないだろ?」
「初恋の君?」
「知らないの?翔の初恋の相手、男だよ?」
「それは知ってるけど」
「今だって助け求めたよね?
絶対来るわけないじゃん。夢見すぎでしょ?
いい加減現実見なよ」
松岡さんが少し馬鹿にしたように吐き捨てた。
「別にいいだろ。そんなのあんたに指図される事じゃない
櫻井の気持ちは櫻井だけの物だよ」
「そんなこと言ってていいの?
あんただって焦れったい思いしてんじゃないの?」
こいつにもバレてるのか…まぁ、同じ人間を想ってるんだからな、少なからず敵意を感じてんだろ…
俺もそうだったし。
「だとしても、俺は相手が嫌がることは絶対しない!」
「いつまでそう言っていられるんだろうな?
口だけだったらなんとでも言える」
俺だって、今ギリギリの所にいるんだ…こいつの気持ちも分からなくはない…それでも…
「…智さんは口だけなんかじゃない…」
それまで黙って背中に隠れていた櫻井が、ポツリと呟いた。
「は?」
松岡さんが聞き返すと顔をあげた
「智さんは口だけじゃない!今までだって言ったことはなんでも実現させてきた…
智さんの凄さ知らないくせに!」
「智さん?こいつの名前『智』なの?」
松岡さんは目を見開いた。
「…そうです」
「じゃあさ、お前がさっき『さと』って助け求めたのって『さとくん』じゃなくて『智さん』なの?」
櫻井が俺に助けを求めてくれた?
櫻井を見ると顔を紅くしてゆっくりと頷いた。
「はっ!なんだよ!そういうことか。
半年くらいの間に、お前も成長したもんだな」
松岡さんが笑い出した。
「いつまでもガキの頃の想い引きずってるなら忘れさせようと思ったけど、ちゃんと今を見るようになったんだ…」