第33章 シルキー
「あ、ここです」
櫻井さんの店から2、3分のところにある小さなアパート。
「ほんとに近いんだね」
「えぇ…まだお時間大丈夫なら上がっていかれません?コーヒーくらいなら淹れられますから」
「いいの?」
「はい。もちろん」
櫻井さんの部屋にお邪魔した。
部屋はワンルームで殆ど物がない。クリームらしき容器はたくさんあるけどベッドとテレビと小さなテーブルがあるくらい。
「ここ座ってください」
クッションを置いてくれた場所に座った。
「あまり物置いてないんだね」
櫻井さんは同じフロアーのキッチンスペースでコーヒーを淹れてくれてる。
「えぇ…はじめは部屋を借りるつもりもなかったんです。店で寝泊まりすればいいかなって…でも店だとお風呂がないし、布団を置くのも余計なスペース使っちゃうからやめました」
「家でゆっくりしようとか思わなかったの?」
「オープン当時はずっと仕事してたので家には寝に帰ってくるだけでした。
今はカズくんが手伝いに来てくれるようになったからその日は家でゆっくりしてますけどね」
「カズさんが手伝ってくれるまで休みなしで働いてたの?」
「いいえ、さすがに休みなしはキツいから日曜日だけ定休日にしてました。
はい、どうぞ…」
櫻井さんがマグカップを手に戻ってきて俺の前にひとつ置くと向かい側に座った。
「ありがと」
俺はコーヒーを一口啜った。
「今は日曜日も店やってるよね?」
ポイントカードに定休日は書いてなかった。
「えぇ、お客様から日曜日もやって欲しいって言われたので…平日は7時までしかやってないから中々来られないんですって」
「家の姉ちゃんみたいな人だね」
「そうですね。でも言われてみればその通りなんですよね。それでどうしようか悩んでいたときにカズくんが手伝うって言ってくれたんでその言葉に甘えちゃいました」