第33章 シルキー
メシを食い終わって店を出た。
まあ正確には食い終わってはいないんだけどね。
俺の言葉を聞いた櫻井さんは『ドキドキしてもう食べられない』だって…ほんと可愛い。
常連客の櫻井さんの為にお店の人が残った唐揚げを持ち帰れるように包んでくれた。
『いつもだったらぺロっと食べちゃうのに具合でも悪いのかい?』なんてお店のおばちゃんに心配されて、首を振って申し訳なしそうに謝る櫻井さん。
そうさせてしまったのは俺なんだと思うと俺も申し訳ない気持ちになった。
店を出てから『ごめんね、俺のせいで』って謝ったらまた真っ赤な顔をして首を横に振った。
「謝らないでください…俺が勝手に食べられなくなっちゃっただけなんで…」
ふたり並んで来た道を戻っていく。
「櫻井さんの家どこなの?送っていくよ?」
「店の近くです。店開くときに近い方がいいと思って越してきました」
「そうなんだ」
「大野さんはご実家なんですよね」
「ん、大学も職場も家から通えるところだから家出るタイミング逃した。
だから姉ちゃんにいいように使われてて辟易してたんだけど、今回ばかりは感謝だな」
「どうして?」
「櫻井さんに逢えたから。もし姉ちゃんに頼まれなかったら一生行くことない場所だったもん」
「それだったら俺も感謝しないと。お姉さんが家の常連さんになってくれなかったら大野さんに出逢えなかった…」
「そうだね…姉ちゃんに大感謝だ」
俺は横に並んで歩く櫻井さんの手をそっと捕らえて握った。
櫻井さんの顔を見て微笑むと『はい…』っていう返事と一緒に綺麗な微笑みを見せてくれた。