第33章 シルキー
「優しいなんて言われたことないよ…昨日も言ったけど姉ちゃんには冷たい男って言われてるし」
「そんなことないです。大野さんは優しいですよ」
「ううん、優しいのは櫻井さんだよ」
「え?」
「人ってさ、されたことを相手に返すじゃん。だからもし俺を優しいって思うならそれは櫻井さん自身が優しいから」
「そんなことないですっ」
櫻井さんは顔を紅くしながらご飯を口いっぱいに頬張った。
「けほっ!」
「大丈夫?慌てて食べるから」
俺がコップを渡すとコクコクと水を飲み『はぁ~』と息をついた。
「だって大野さんが恥ずかしいこと言うから…」
「恥ずかしいことってなに?」
「…俺のこと優しいって…」
「だってほんとの事じゃん」
「だからそう言うこと言っちゃ駄目なんです。女性だったら勘違いしますよ?」
「何?勘違いって?」
「優しいなんて言われると『この人私に興味あるのかな』とか思っちゃうじゃないですか…もしかして褒めて振り向かせようとしてるの?…とか…」
俯きながら落ち着かない感じでコップを弄る櫻井さん。
「それ、櫻井さんにも当てはまる?俺のこと優しいって言ってくれたけど」
「あっ…」
櫻井さんが顔を勢いよくあげると真っ赤に染まった頬…
「俺はね、櫻井さんに興味あるよ?」
「えっ!」
「褒めて振り向かせようとは思ってないけど」
「…ですよね」
今度は哀しそうに顔を歪めた。
俺、思い上がってないよね?さっきからコロコロ変わる櫻井さんの表情ってそういうことでいいんだよね?
「振り向かせる為に褒めてはない…本当のこと言ってるだけだし。
でもね、櫻井さんのことを振り向かせたいとは思ってるよ」
櫻井さんの目が大きく開き固まった。
「…う、そ…」
漸く櫻井さんの口から出た言葉…俺は笑顔を浮かべると即行でその言葉を否定した。
「ほんと」