第33章 シルキー
ふたりが出たあと店の戸締まりをして俺たちも外に出た。
「大野さんって苦手な食べ物ありますか?」
「特にはないかな」
「それならこの近くによく行く店があるんでそこでいいですか?」
櫻井さんがよく行く店?喜んで行くでしょ。彼が普段どんな生活をしているのか知りたい。
「もちろんいいよ」
「良かった…じゃあ行きましょ」
櫻井さんの横に並び歩くと今日もあの甘い香り。
「ミルクティー…」
「え?」
「今日も付けてるんだ、ミルクティーの香りのクリーム」
「えぇ、何日間か同じものをつけていないと効果がわかりませんから」
「好きだな…」
櫻井さんから感じる香りだからなのか、凄くほっとする香り。
櫻井さんの気配が隣から消え、振り返ると紅い顔をした櫻井さんが立ち止まっていた。
「あれ?…どうかした?」
櫻井さんの元へ戻ると慌てて首を横に振る櫻井さん。
「あっ、いえっ、なんでもないです…ちょっと吃驚しただけで…」
「吃驚?なにかあったの?」
「いいえっ!ほんとなんでもないんでっ、気にしないでください!
さぁ、行きましょ?」
急に歩き出した櫻井さんのあとを小走りで追いかけ隣に並んだ。
「ここです」
「ここ?」
想像してた店とは違ってた。てっきりお洒落な洋食屋にでも行くのかと思ったのに、着いた先はちょっと寂れた感じの定食屋。
「俺、料理出来ないんで大体この店で夕食食べてるんですけど、ここの唐揚げ定食絶品なんです」
ニコッと笑うその屈託のない笑顔に、もう何度目かわからない胸の締め付けを感じた。