第33章 シルキー
「それより翔さんどうしたの?こんな時間に」
『それより』って…折角櫻井さんとの時間を楽しんでたのに邪魔された…
「ちょっと出掛けてたんだけど、家に帰るのに店の前通ったら電気がついてたから。
カズくんまだ帰れてないのかな、って思って」
「ごめんね、もう帰ろうとしてたんだけど、この…大野さん?だっけ…ちょっと話し込んじゃって」
「そうだったんだ…俺代わるからカズくんはあがって大丈夫だよ?」
「あぁ、話自体は終わったから大丈夫。ほんとにもう店出るところだったんだよね?潤くん」
「そうそう…だから早く店出て明かり消した方がいいよ。翔さんみたいに店がやってると思って入って来ちゃうかも知れないし」
そっか、俺のせいだよな。もうとっくに7時過ぎてる。
「ごめん、引き留めちゃって。俺帰りますね…また改めて来るんで」
早く出た方がいいと思い、会釈をしてドアに向かった。
「あ、待って大野さん…」
櫻井さんに呼び止められ振り向くと、少し恥ずかしそうに微笑む彼。
「あの…もしよろしければ一緒に食事にでも行きませんか?」
「「えっ⁉」」
驚いたのは俺じゃなくあのふたり。
「翔さん?どうしたの?翔さんが人を食事に誘うなんて珍しい」
カズさんが櫻井さんを凝視する。
「ほんとだよ。俺たちが誘ったって中々いい返事しないのに」
「あ、えと…だって、大野さん、折角来てくれたのに…」
「ふ~ん…そういうこと…」
カズさんが意味ありげに笑った。
「そういうことなら俺たちの出る幕はないね、さ、帰ろ?潤くん」
カズさんは潤くんの腕に腕を絡めた。
「潤、カズくんのことよろしくね」
「ご心配なく~。カズのことは全責任を持って取り扱わせていただきますので」
「ふふっ、そうだったね」
「じゃあいくか、カズ。大野さん、翔さんのことよろしく」
潤くんは俺の方を見るとニコッと笑いかけてきた。なんだか認めて貰えた感じ?
俺が軽く頭を下げると満足そうに微笑んだ。
「翔さんお先ね」
「ありがと、カズくん。お疲れさま」