第33章 シルキー
「大野さんって口がお上手なんですね、女性にモテるでしょ?」
「いいえ、全く」
「そんなご謙遜を…人のことを良く見ていらっしゃるし、褒め上手だから女性も喜ぶんじゃないですか?」
「人のことなんて見てないよ…況してや女性に褒め言葉なんて言ったことない。
姉からは冷たい男って言われてるし」
「先程から話してる様子ではそんな風には見えませんけど…」
「相手があなただから…かな」
「私だから?」
「もし俺の言ってることが褒め言葉に聞こえるなら相手があなただから」
彼は首を傾げた。
「あの、おっしゃってる意味が良くわかりませんが…」
「それだけあなたが魅力的な人ってこと」
彼の顔が紅く染まった。
「あ…ありがとう、ございます…」
「また来ていい?」
「え…」
「もっと色々知りたいから、また来てもいい?」
「あぁ…いつでもどうぞ。肌ケアのことならいくらでも相談に乗りますので」
知りたいのはあなたのことだけどね…
でも今日のところはこれで十分。ここに来る口実が出来た。
会計を済ませると彼がカードにスタンプを押した。
「これ、ポイントカードです。
またいらしてくださると言うことなのでお持ちください」
差し出されたカードを見ると花の形のスタンプが押されていた。
「桜の花?」
「ええ、私の名前が櫻井なんで桜のスタンプにしてます」
「櫻井さん…」
「はい。またいらしてくださいね、お待ちしてます」
彼に笑顔で見送られ店を後にした。
家に向かって歩きながら俺は生まれて初めて姉ちゃんの弟に生まれたことを感謝した。