第33章 シルキー
彼は指先にクリームを付けると左の手のひらで俺の左手を取った。
軽く手を握られた状態に緊張する。
クリームの付いた彼の右手の指が俺の腕を優しく擦る…すげぇ気持ちいい。
またしても超至近距離に彼を感じ、見つめ続けていると俺の心臓のバクバクは止まらない。
彼は顔をあげるとニコッと笑った。
「触ってみてください」
俺は右手を伸ばし彼の頬に触れた。
するすると手を動かすと絹のような滑らかな手触り…
「えっ…」
彼の驚く声とピンクに染まる頬が目に入る。
「あの…」
戸惑ったような彼の声。
「はい?」
「触るのはご自分の腕…なんですけど…」
「えっ!あっ!ごめんっ!」
「いえ…大丈夫です…」
そうは言ってくれたけど視線は逸らされるし顔は真っ赤…
あぁ~、やっちまった…
「くすっ…面白い方ですね、大野さんって」
落ち込み俯く俺に彼の優しい笑い声が聞こえ、チラッと顔をあげると女神のような微笑みが目に飛び込んできた。
胸がぎゅっと締め付けられる…そしてその瞬間、自分が完璧に恋に落ちた事を自覚した。
「大野さん?」
黙り込む俺を不思議顔の彼が見る。
「どうかされました?」
『あなたに恋しました』…思わず口をついて出そうになった言葉を呑みこみ、そして咄嗟に出た言葉。
「いい匂いがする」
「え?」
突然の俺の言葉に驚きの表情を見せる。
「あなたから、甘くていい匂いがする」
「あぁ、今日はミルクティーの香りがするクリームを塗ってるんです。
甘い香りなんで本来なら男性向けではないんですけど、お客さまに紹介するにはまず自分が使ってみないと」
「その甘くて優しい香りがあなたによく似合ってる」
「え、あっ、ありがとうございます」
彼の顔が再び真っ赤に染まった。