第5章 rival
土曜日に釣りに行くことにしたから、金曜日の夜、櫻井が泊まりに来ることになった。
仕事が終わり、デスクで片付けをしていると
「それじゃ智さん、俺、一度家に帰って、着替えてからお邪魔しますね?」
「おぅ、分かった。家で一緒に飯食おうぜ、何か用意しておくから」
「はい。ありがとうございます」
「なになに?楽しそうな話してんじゃん
わざわざ着替えてから行くなんて、智の家でお泊まり会でもするの?」
向かいのデスクからニノが身を乗り出してきた。
「明日釣りに行くのに、朝早いから家に泊まるだけだよ」
「ふ~ん、釣りねぇ…智が釣りたいのは魚じゃないんじゃないの~?」
「なにがだよ」
「いや、ねぇ…狙ってる獲物が違うんじゃないかなぁ、って思っただけだから…お気になさらず~」
なんて惚けた事を言う。
ニノの事だから、俺が櫻井の事好きだって、もうバレてんだろうなぁ…岡田にも言われたくらいだし…
「じゃあ、すみません。お先失礼します」
「慌てなくていいからな?気を付けて来いよ」
「はい」
櫻井の背中を見送って机に向き直ると、ニノと目が合う。
「大丈夫なの~?お泊まりなんてさせちゃって」
ニヤニヤしながら聞いてきた。
「…大丈夫だよ!」
「ならいいんだけど…間違っても襲わないでよ?
明日釣りに行けなくなるからね?」
やっぱりバレてるか…
でも釣りに行けなくなるって?
「なんで釣りに行けなくなるんだよ?」
ニノが席を立ち、櫻井の椅子を引っ張り、俺のすぐ脇に座る。回りに聞こえないように声を押さえ、小声で話す。
「あのねぇ、男同士のエッチって大変なんだよ?
知識もないでやっちゃうと、次の日起き上がれなくなるからね」
「お前詳しいな…」
「え、あ、まぁ、ちょっとね…」
目が泳ぐニノ
「そんな事より分かった?釣りに行きたいなら、櫻井のこと襲っちゃ駄目だよ?智さん?」
「分かってるよ、てかお前が『智さん』て言うな」
ニノは『ははっ』って笑いながら、席に戻っていった。