第32章 麗しのキミ
運ばれてきたビールと料理を堪能しながら大野さんについての話を聞いた。
翔さんの話によると大野さんが言っていたこととは大分ズレがあった。
「変人?智が?ははっ、本人やっぱわかってないわ…変人じゃなくて麗人だよ。智は学校の中で『麗しの君』だったの」
「そんなことないよ、皆僕に話し掛けてこなかった」
「あのな、話し掛けて来ないじゃなくて話し掛けちゃ駄目だったの」
「どういうこと?」
大野さんが小首を傾げる。
「皆のマドンナ的存在だったから。
しかもお前絵を描き始めると自分の世界に入っちゃうだろ?だから声を掛けたくても掛ける機会が少ないんだよ。
で、お前の絵を描いてる姿がこれまた皆の注目の的でそれを邪魔するやつなんかいたら皆から恨まれるから誰も手出し出来なかったんだよ」
納得…あの日俺が大野さんの絵を書く姿に心奪われたように学生時代も皆そうだったんだ。
知らぬは大野さん本人だけ…
「手出しってそんな…僕、皆に相手にされてないのかと思ってた」
「何言ってんだ…お前が周りの人間に興味持たなかっただけだろ」
翔さんが少し呆れた顔をした。
「あぁ、この前大野さん言ってましたね。人間に興味ないから風景画が多いって」
「だろ?高校の時なんて一番人気だったんだぞ?」
「そんなことないよ、翔ちゃんの方がモテてたじゃん」
「女子だけな?智の場合は男女問わずだからトータル的にはお前の方がモテてたよ」
「男女問わず?」
「そ、男からも狙われてたんだよ。俺がどれだけ男子から恨まれてたか知らないだろ?」
「知らないよ、そんなの」
「まぁ、それが智だからな。だから俺が魔の手から守ってやらないと駄目なんだってずっと思ってた」
「翔ちゃん…」
智さんを見る翔さんの瞳が優しすぎて胸が締め付けられるようだった。
このふたりの間に割り込むことなんて到底無理な話なんだ。絆が深すぎる。