第32章 麗しのキミ

「だから俺そんなことしないって…智が表舞台嫌うの誰よりも知ってるんだぞ？
今までだって一度も取材の依頼なんてしたことないだろ」

「そうなんだけど…こんな偶然あるのかな、って思っちゃったんだよ」

「俺って智にとってそんな存在？偶然を信じるよりも俺のこと疑うんだ」

翔さんが哀しそうに大野さんを見た。

「ごめんっ、翔ちゃん。翔ちゃんのこと誰よりも信じてるよ？翔ちゃんがいてくれたから今回の個展だって開けたんだし。翔ちゃんには本当に感謝してるから」

大野さんはすがるように翔さんの腕を掴んだ。
翔さんはポンポンと大野さんの頭を撫でると優しく微笑んだ。

「ごめんな、俺の方こそ…信頼されてないのかと思ったらちょっと悔しくて」

「ううん。翔ちゃんは悪くないから…僕が悪いの」

うるうるの瞳で翔さんを見つめる大野さん。
なんだかふたりのやり取りを見ていたら俺の存在は邪魔なんじゃないかと思えてきた。
このふたりの雰囲気、まるで恋人同士じゃないか。

せっかく再会できたのにいきなり失恋かよ…翔さん相手じゃ敵わないよなぁ。

「いいよもう、智から取材受けるって言ってくれたし。それで許す」

「ありがと、翔ちゃん」

「ということで、潤」

「は？」

突然名前を呼ばれ吃驚した。

「お前が担当な？智の取材」

「へ？」

「大野先生直々のご指名だから、頼んだぞ？『大野智』の特集組むから、良いもの書けよ？」

「え？俺が？」

「あぁ、智が潤の取材だったら受けていいって…2度とないかもしれないんだから最高の記事にしろよ」

「はいっ」

「よろしくね、松本さん」

ニコッと笑いかけてくれた大野さん。

俺が『大野智』の取材出来るんだ。
画家『大野智』の凄さを俺の手で世間に伝えることが出来る。
ここは気持ちを切り替えて気合い入れてかないと。