第32章 麗しのキミ
「とりあえずビールとあと何食べる?」
翔さんに聞かれたけどそんなことはどうでもよくて、一刻も早くこの人の話が聞きたかった。
「翔ちゃんに任せる」
「あ、俺もお任せで…」
「じゃあ、適当に頼むな…」
翔さんが店員さんを呼び、俺は彼に質問した。
「あの、何を確認したかったんですか?」
「え、あぁ…翔ちゃんがね、送り込んできたのかと思ったの」
「送り込んだ?俺を?」
「そう…翔ちゃんにはあの場所で絵を描いてること伝えてあったから、だから翔ちゃんに確認したかったんだ」
「ひでぇよなぁ、疑うなんて…俺そんなことしないってぇ」
店員さんに注文し終わった翔さんが苦笑した。
「ごめん、だってタイミングが良すぎたから」
「タイミング?」
「うん…丁度ね、個展が開催された時だったから」
「個展?」
「あぁ、まだ名前言ってなかったね。大野智です。よろしくね、松本さん」
「………ええっっ!マジでっ⁉」
「うん、マジで。だから俺も周りの人間に智のこと話せないんだよ」
俺、『大野智』本人に『大野智』のこと語ったの?
うわぁ~超恥ずかしい…しかも大野さんの絵見たのに『大野智』の絵だって気がつかないなんて…
俺もまだまだだな。
「松本さん?どうかした?」
がっくりと肩を落とす俺に心配そうに声を掛けてくれる大野さん。
「いや、色んな感情が入り乱れてて…」
「大丈夫?」
「はい、なんかすみません…色々と…」
「え?なにが?」
大野さんの顔を見るとキョトンとしていた。
「あの時『大野智』を熱く語ったこととか、大野さんの描いた絵見たのにご本人だって気がつかなかったこととか」
「あ~、そんなこと全然気にしてないよ?むしろ知らないのに僕のこと褒めてくれて凄く嬉しかった。
だから名刺もらったとき翔ちゃんの差し金?って思ったら哀しくて」
あぁ、だから名刺を渡した時険しい表情したのか。