第32章 麗しのキミ
あれから一週間。彼から連絡が来ることはなかった。
あれだけ即答で断られたんだもんな…気が変わることなんてないか。
あ~、名前だけでも聞いておけばよかった。プロとして仕事をされてるなら彼の作品を探すことも出来ただろうに…
こういうとこが抜けてんだよな、俺。
「はぁ~」
「ん?どうした、潤。溜め息なんて吐いて」
盛大な溜め息をついたせいかデスクにいる編集者が声を掛けてきた。
「あ、ちょっと自分の間抜けさに自己嫌悪…」
「この一週間元気ないもんな、お前が落ち込むなんて相当のことなんだろうけど」
「取り返しのつかないことしたなって」
「仕事…じゃないよな?」
「違うけど…」
「じゃあ女か?」
仕事絡みじゃないとわかったせいかニヤリと笑うその顔はもはや俺をからかう気満々で
「違いますっ」
「じゃあ男?」
「は?」
普通に言われ驚いた。まぁ、こういう世界にいると同性同士の恋愛なんて珍しいもんじゃないし。
でもまさか自分がその対象になるとはあの人と出逢うまでは思ってもみなかった。
「ははっ、冗談。なぁ今夜予定ある?」
「いや、特にないけど?」
「じゃあちょっと付き合えよ。お前に紹介したい奴がいるんだ」
「紹介?誰?」
「俺のダチ」
「翔さんの?なんで?」
翔さんとは大学の先輩後輩の仲で、入社当時こそ違う部署で働いてはいたけど、それでもよく面倒は見てもらってた。
翔さんがここの編集長に決まった時に俺は翔さんに呼ばれこの部署に配属になった。
それなりに親しく付き合ってきたけど今まで友人を紹介なんてされたことなかったのに、なんで今更?
「ん、ちょっと面白いのがいるから…お前に会わせたくなった」
「ふ~ん、そうなんだ。いいよ、翔さんの奢りなら」
「お前なぁ…ま、いっか。落ち込んでるようだしゴチしてやるよ」
「あざーすっ」
ほんと面倒見がいいんだから。