第32章 麗しのキミ
あ~、そういうことか…
今、自分が言ったことで気がついた…俺、この人に興味を持ったんだ。
この人自身が持つ不思議な雰囲気に心惹かれたんだ。
だから時間が経つのを忘れてこの人を見続けることが出来たんだ。
でもそんな事をこの人に言ったらドン引きされるだろうな。只でさえ怪しい奴だと思われてるだろうに。
「二人目です」
「え?」
「ほら僕、学生の頃変人扱いされたって言ったでしょ?」
「あぁ…」
「僕に興味を持ってくれる人なんていなかった」
「でもひとりはいたんですよね?」
「はい、僕の幼馴染みです…今でも彼だけが僕の理解者です」
微笑みながら話す彼…その微笑みは嬉しそうに見えた。
よっぽど信頼の置ける人なのか、それとも他の感情を持ち合わせているのか…いずれにしてもこんな表情をさせるその友人が羨ましい。
「いいですね…」
「え?」
「あ、いえっ…理解して貰える人がいるっていいなって」
「松本さんだっているでしょ?」
突然名前を呼ばれ吃驚した。
「なんで俺の名前…」
「さっきの名刺に書いてありましたけど?」
「あ、そうか…」
「ふふっ、なんか意外…ずっと紳士的に話されてるからしっかりした方なのかと思ったらちょっと天然?」
「あ~、上司からも言われます」
「上司?」
「編集長です。俺と2歳しか変わらないのに凄く仕事が出来て、完璧という言葉がふさわしい人」
「あぁ…わかります」
「え?」
「あ、いえなんでも…あ、僕そろそろ帰らないと」
「あっ、すみません。いつまでもお引き留めしてしまって」
「いいえ、松本さんとお話しできて楽しかったです。ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
「それじゃあ…」
荷物を纏めて立ち去ろうとする彼に最後に声を掛けた。
「もし気が変わったらいつでも名刺の所に連絡ください。あなたの為ならすぐに時間作りますから」
彼は少し驚いた顔をしたけどすぐにふにゃっと表情を崩し笑顔でお辞儀をし歩いていった。