第32章 麗しのキミ
なんだか不思議な人だな…この人の描きあげた絵はどんな風に仕上がるんだろう。
「あの…」
「はい?」
「絵、見せていただくこと出来ませんか?」
「……」
黙ったまま俺の顔をじっと見るその人。初対面の人間にこんなこと言われたら警戒するの当たり前か。
「すみません、仕事柄絵に興味があって」
「仕事柄?」
俺は自分の名刺を取りだしその人へ渡した。その人は名刺を受けとると少し眉間に皺を寄せた。
「はい。俺、雑誌の編集者なんです。今担当しているのが芸術を扱う雑誌なんで日頃から色々な場所へ行って絵画を観て歩いてます」
「なるほどね…」
「あなたの絵、とても気になって。このあとどう仕上がっていくのか見てみたい」
「申し訳ないですけどお断りします」
はっきりと断られてしまった。
「駄目ですか?どうしても?」
「えぇ、すみません…」
「そうですか…まぁ当然ですよね。急にこんなお願いしてこちらこそすみませんでした」
「えっ?それだけ?」
驚きの表情をするその人。どういうこと?もっとちゃんと謝れって?
「なにか気に障ったのなら改めて謝罪しますけど…」
「いや、そういうことじゃなくて…」
言い淀む彼。
「すみません…もしかするとこちらが勘違いしてるのかも…」
「勘違い?何を?」
「あ、いえ…なんでもないです。すみません、どちらにしても今日のところはお見せする絵がないのでお断りさせていただきます」
「そうですね…こちらも無理を言いました。あなたに興味を持ってしまったので」
「僕に?」
「はい、あなたに…あなたの描く絵ももちろんですけど、あなた自身も非常に興味深い。だからあなたの描いた絵がどんな作品になるのか、あなたが何を伝えたいのか見てみたくなった」