第32章 麗しのキミ
話をしていると益々興味が沸いた。
「いつもこの辺で描かれてるんですか?」
「いえ…気まぐれなんでその時その時違います」
今まで見ていた数々の表情と、今目の前でふにゃっと笑って答えるその様子は掴み所がないと言うか、まさに気まぐれな猫を想像させた。
「その絵は?描き終えるまでここで描かないんですか?」
「えぇ、あとは家でも描けますから…色は自分が感じた色を塗るので実物を見る必要はないんです」
「感じた色?いま目にしてる色とは違うってことですか?」
「はい、そのモノが出してるエネルギーの色です」
「『大野智』みたいですね…」
「えっ?」
その人物が驚いて固まった。
「あぁ、すみません…今彼の個展を観てきたので。
知ってますか?画家の大野智。最近人気の画家なんですよ?」
「あぁ…えぇ、まぁ…」
「観たことありますか?彼の絵」
「はぁ…まぁ…」
そりゃそうか、これだけの絵を描く人なんだから人気の画家くらい知ってるよな。
「すみません、失礼なこと言いましたね」
「え、なんで?」
一瞬彼の表情が強張った。
「こんな素晴らしい絵を描く方が有名画家の情報を知らない筈がない」
「あぁ、そういうこと…」
「彼の描く作品好きなんですよ。細やかなのにエネルギーに満ち溢れてて…
観ているこちらも力が湧いてくる」
ふにゃっと笑ったその表情が俺の話を肯定してるように見えその後も『大野智』について語る俺…
「あ、なんかすみません…突然話し掛けたのに長々と…お邪魔でしたね」
「いいえ…久しぶりに人と接したのでこちらもいい気分転換になりました」
「久しぶりに?普段は何をやられてるんですか?」
「あ、えと…家でイラストの仕事を少々…」
「あ~、なるぼど…本職の方でしたか。だからお上手なんですね。重ね重ね失礼しました」
「あぁ…気にしないでください…普段からそういった仕事をしてるようには見られないんで」