第32章 麗しのキミ
滑らかに動くその手が描く絵はその動きからは想像できないくらいエネルギーに満ちたものだった。
風景画ではある。でも今目の前に広がる風景よりもはるかに生き生きとして見えた。
どんな人物なんだ?
本人が見える位置に移動した。
その表情は穏やかでやはりその絵とのギャップに驚かされた。
この絵に描き表されてる熱がこの穏やかな表情を持つ人物のどこに潜んでいるんだろう?
その絵はもちろんの事、その人物から目が離せなくなった。
どれくらいの時間そうしていたんだろう?
時が経つのを忘れるくらい見つめ続けたその人物が手を止めふーっと大きく息を吐いた。
息を吐き終わったときにはまた最初に発見した時と同じような静に戻っていた。
「凄いですね…」
「は?」
声を掛けるとその人物が驚いたように俺を見た。
「あぁ、突然すみません。あなたの描く絵が素晴らしくてついつい見入ってしまいました」
「え?あ…ありがとう…」
「凄い集中されていたので声も掛けられなかった」
「あぁ…そうみたいですね、友人からもよく言われます。
描き始めると声を掛けても反応がないって…そのせいで学生の頃は変人扱いされてました。だから友人も少なくて」
「まぁ、若い頃はそういった才能は理解されづらいですからね」
「僕自身、人に興味が無いから余計なんです」
「人に興味がない?」
「えぇ…だから描く絵も風景画なんかが多い。自然や物から感じるエネルギーを描くのが好きなんです」
「感じたエネルギーを描く…ってことですか?」
「まぁ…そういうことですかね…」