第32章 麗しのキミ
休日の昼下がり、新鋭画家の個展を観に外出した。
仕事柄、こういった個展や絵画展には多く足を運んでいる。
今日行った個展はここ数年、急成長というか急激に人気の出てきた作家で俺個人としてもとても好きな作家だった。
ただ本人が表舞台に出てくることがなく、とにかく情報が少ない。
個展を開いているのに全部不詳で写真さえ掲載されてない。
わかってるのは名前と性別だけ。
とにかくマスコミが嫌いらしく相当な気難し屋なのではないかと言われてる。
個展を観たあと天気も良かったので緑生い茂る公園の中をぶらぶらと歩いて帰った。
こんな日は公園の中も多くの利用者がいる。
親子で遊ぶ家族連れ、ゆったりと愛犬を散歩をさせる人、ランニングコースでは汗を流して走る人。
人々も自然も生命力で溢れてる場所。
そんな光景を楽しみながら歩いているとひとり静かに佇む人が目に入った。
少し猫背でぼーっとしているその様子はこの公園で散歩を楽しむ老人、といったところか。
ただ年齢はそんなにいってなさそうなんだけど。
いったい何を見ているんだろう?ちょっと気になって遠巻きにその人を見ていた。
突如動き出したその人物…スケッチブックらしき物を片手に鉛筆を走らせ始めた。
さっきとは全く別人のようなオーラ…
生命力を感じさせず自然に溶け込んでいた人物は今や生命力をみなぎらせ黙々と手を動かしていた。
その静と動のギャップに興味をそそられた。
邪魔をしないように静かに近付き少し後ろからその人物を観察する。